犯人が海外に逃げたら、どうなるか?
この記事を書いたのは:旭合同法律事務所(名古屋)
死亡を伴う交通事故や通り魔殺人などの重大な事件に巻き込まれる被害に遭っても、犯人が分からないまま終わる場合があります。また、犯人が分かっても、外国に逃げてしまったときは、日本の捜査権や裁判権が及ばないため処罰されず、被害者や遺族にとって無念この上ない場合もあります。
このようなとき、逃げ得を許さないための制度として、「犯罪人引渡し」と「代理処罰」があります。
犯罪人引渡し
そのうちの「犯罪人引渡し」は、犯罪人引渡し条約に基づいて行われます。
しかし、日本とこの条約を締結しているのは、アメリカと韓国だけですから、どの国に対しても犯人の引渡しを要請するという訳にはいきません。もっとも、条約を締結していない国でも、外交交渉によって相互に合意が得られれば、個々の事件ごとに犯罪人の身柄拘束と引渡しが行われる例もあります。
外国人による凶悪犯罪は毎年のように発生しています。
その犯人が外国に逃げ込んでしまうと、日本の捜査権は及びません。
ブラジルなど一部の国では、憲法で自国民を外国に引き渡すことを禁止している国もあります。
代理処罰
そのような場合でも、相手国の法令に基づいて犯人の処罰を実現する制度が「代理処罰」です。正式には国外犯処罰といわれています。
代理処罰は、A国で犯罪を犯した犯人が母国Bまたは第三国Cへ逃げ込んだため、A国の捜査権が及ばない場合に、A国政府から、犯人が逃げ込んでいるB国あるいはC国に対し、捜査及び裁判を行うことを要請する制度です。日本でも2000年代になってからは、逃げ得を許さないため代理処罰を要請するケースが少しずつですが、積み重ねられています。
代理処罰は、一見すると重宝な制度のように見えますが、次のような問題点が指摘されています。
①捜査書類の翻訳その他の手続が煩雑です。そのため、日本では死亡を伴う重大事件などにしか利用されていません。
②犯人を起訴するかどうか。裁判でどのような量刑にするか。これらの判断は裁判を行う現地B国またはC国の法令に基づいて決められます。そのため、被害者が発生したA国の感覚に合わない刑罰が適用されることもあります。
③裁判が相手国で行われるため、被害者や遺族が傍聴するには経済的にも時間的にも大きな負担がかかります。
例では、2005年10月に静岡県湖西市で2歳の女児を死亡させる交通事故を起こした後、母国のブラジルに逃げ帰っていた犯人について、日本政府が代理処罰を要請しました、この要請をうけてブラジルで犯人が起訴され、現地の裁判所は先の1審に続いて2015年9月、2審も被告人に懲役2年2月の判決を言い渡しています。
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旭合同法律事務所(名古屋)