宇宙交通管制(スペーストラフィックマネジメント)とは?宇宙活動法・衝突防止ガイドラインの規制と企業の実務対応を弁護士が解説

この記事を書いたのは:川村将輝

宇宙交通管制の必要性と法整備

2020年代後半に差し掛かり、低軌道を周回する人工衛星の数はかつてない速度で増加しています。大規模な衛星コンステレーション計画の進展により、内閣府が公表した資料では軌道上に存在する人工衛星が約17,000機に達しているとされ、軌道の混雑化とスペースデブリの増加が国際的な政策課題として認識されるようになりました。
内閣府宇宙開発戦略推進事務局「軌道利用のルール作りに関する中長期的な取組方針(改訂案)」2026年3月25日

こうした状況を背景に、日本国内でも「宇宙交通管制(スペーストラフィックマネジメント、STM)」に関する法整備と実務対応が急速に進んでいます。2025年2月には内閣府が「人工衛星等との衝突防止に係るガイドライン」を策定し、2026年には人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(いわゆる宇宙活動法)の改正法(令和8年法律第39号)も成立するなど、宇宙関連事業に携わる企業にとって法的対応の重要性はかつてなく高まっています。

本記事では、航空・宇宙分野に精通する企業法務を専門とする弁護士が、宇宙交通管制をめぐる規制の全体像、宇宙活動法上の許可制度、衝突防止ガイドラインへの実務対応、そして近年注目されているAI・LLMによる統制システム導入時の民事責任の考え方まで、実務的な観点から解説します。

本記事のポイント

  • 宇宙交通管制(STM)の定義と宇宙状況把握(SSA)との違い
  • 宇宙基本計画・宇宙安全保障構想における政策的な位置づけ
  • 宇宙活動法上の打上げ許可・人工衛星管理許可の要件と2026年法改正の動向
  • 「人工衛星等との衝突防止に係るガイドライン」で事業者に求められる具体的な体制整備
  • AIが衝突回避判断を担う場合の民事責任の所在を自動運転分野の議論と比較しながら整理する視点
  • 第三者損害賠償制度と保険設計上の留意点
  • 国際的な規制動向とその日本企業への影響
  • 企業が今すぐ着手すべき実務対応について

宇宙交通管制(STM)とは何か

軌道混雑とスペースデブリ問題の現状

宇宙交通管制とは、地球周回軌道上を移動する人工衛星やロケット上段、スペースデブリなどの物体について、衝突を回避し、軌道空間を持続的に利用可能な状態に維持するための調整・管理の枠組みを指します。内閣府の資料では「Space Traffic Coordination and Management」という表現が用いられ、様々な主体が国際的な場において軌道利用を調整・管理していく必要性が強調されています(前掲・内閣府「軌道利用のルール作りに関する中長期的な取組方針(改訂案)」2026年3月25日)。近年、大規模小型衛星コンステレーションの急速な展開により軌道上の物体数が急増する一方、既存の国際規範の多くは法的拘束力を伴わないソフトローに依拠しており、実効性のある国内法制度の整備が急務となっています。

宇宙状況把握(SSA)との違い

宇宙交通管制と混同されやすい概念に「宇宙状況把握(Space Situational Awareness、SSA)」があります。SSAは、レーダーや光学望遠鏡等を用いて軌道上の物体の位置・軌道情報を継続的に観測・把握する技術的な活動を指すのに対し、STMはSSAによって得られた情報を基に、実際の衝突回避や軌道利用のルール形成、事業者間の調整を行う制度的な枠組みを指します。つまりSSAはSTMを支える情報基盤であり、両者は車の両輪の関係にあります。日本では防衛省・自衛隊が2023年3月からSSAシステムの運用を開始し、2025年3月からはSSAレーダーの運用も始まっており、民間事業者への情報提供の枠組みづくりが進められています。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
宇宙ビジネスに参入する企業からよく「STMとSSAは同じ概念か」というご質問をいただきますが、契約書やコンプライアンス文書を作成する際には、情報取得(SSA)と行動規範(STM)を明確に区別して記載することをお勧めします。両者を混同すると、社内規程や委託契約における責任分界点が曖昧になるおそれがあります。

日本における宇宙交通管制の政策・法的枠組み

宇宙基本法・宇宙基本計画・宇宙安全保障構想における位置づけ

日本の宇宙政策は、2008年制定の宇宙基本法を頂点とし、これに基づいて内閣府に設置された宇宙開発戦略本部が宇宙基本計画を策定する体系となっています。現行の宇宙基本計画は2023年6月13日に閣議決定されたものであり、工程表は2025年12月23日に改定されています。
内閣府「宇宙基本計画」

また、同日に決定された「宇宙安全保障構想」では、宇宙システム全体の機能保証強化の一環として、宇宙状況把握体制の強化が政策課題として位置づけられています
内閣府「宇宙安全保障構想」2023年6月13日

内閣府「宇宙交通管理タスクフォース」と中長期的取組方針

STMに関する具体的な検討は、内閣府に設置された関係府省庁等タスクフォースで行われています。同タスクフォースは2019年から2021年にかけて「スペースデブリタスクフォース」として5回開催された後、2022年3月に「宇宙交通管理タスクフォース」に改組され、2022年、2024年、2025年、2026年と大臣会合が開催されています。
内閣府「宇宙交通管理に関する関係府省等タスクフォース大臣会合」

2026年3月25日の第4回会合では「軌道利用のルール作りに関する中長期的な取組方針」の改訂案が示され、①航行時の衝突防止、②宇宙状況把握体制の構築、③デブリ抑制・低減の推進、④大規模衛星コンステレーション規制、⑤軌道上サービスの推進、⑥制御された大気圏再突入等その他の課題という6つの方向性が整理されています。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス 宇宙基本計画やタスクフォース資料は法的拘束力を持つものではありませんが、今後の宇宙活動法改正やガイドライン策定の方向性を先取りする一次情報です。事業計画やデューデリジェンスの場面では、これらの政策文書を継続的にモニタリングし、規制強化の兆候を早期に把握しておくことが、投資判断やリスク開示の観点からも重要です。

宇宙活動法の許可制度と令和8年法改正の動向

打上げ許可・人工衛星管理許可の要件

宇宙活動法(正式名称:人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律、平成28年法律第76号)は、ロケットによる人工衛星等の打上げを行おうとする者に対する「打上げ許可」と、人工衛星を管理しようとする者に対する「人工衛星管理許可」という二段階の許可制度を設けています。

人工衛星管理許可については、同法第22条に基づき、①利用目的が宇宙基本法の基本理念や宇宙条約の実施に適合し公共の安全に支障を及ぼさないこと、②人工衛星の構造が破砕防止・再突入時の損害防止等の基準に適合すること、③衝突回避や破砕予防を含む管理計画が適切であること、④運用終了時に制御された大気圏再突入・軌道上昇・地球外天体への投入・安全化措置のいずれかを行う計画があることが求められます。また、申請に対する許可判断に係る標準的な処理期間は書類に不備がない場合で15日から3か月とされています。
内閣府「人工衛星管理に係る許可ガイドライン」2025年2月版

令和8年法律第39号による改正動向

そして、先日2026年6月には「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律等の一部を改正する法律」(令和8年法律第39号)が成立・公布されています。
前述の中長期的取組方針でも、デブリ抑制に関する審査基準の実効性確保や、軌道上サービスの制度的位置づけの明確化などが法改正の検討事項として挙げられており、今回の改正はこれらの課題に対応するものと考えられます。

改正法の具体的な施行日や経過措置の詳細については、今後公表される政令・省令やガイドライン改訂を通じて明らかになっていく見込みであるため、既存の許可を保有する事業者、これから許可を申請する事業者のいずれについても、内閣府の発表を継続的に注視する必要があります。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
許可申請の審査においては、管理計画・終了措置に関する記載の合理性が重視される傾向にあります。特に大規模コンステレーションを計画する事業者は、個々の衛星ごとの許可要件だけでなく、コンステレーション全体としてのデブリ抑制方針を一貫した形で説明できるよう、申請前に社内で十分な整理を行うことをお勧めします。

人工衛星等との衝突防止に係るガイドラインへの対応

対象事業者と法的位置づけ

2025年2月27日、内閣府宇宙開発戦略推進事務局は「人工衛星等との衝突防止に係るガイドライン」を策定しました。

同ガイドラインは、宇宙活動法第20条に基づく許可を受けた人工衛星のうち、地球を回る軌道から異なる軌道に移動し得る能力を有するものを対象としており、惑星探査機のように地球を安定的に周回しない衛星は対象外です。法的位置づけとしては、衝突リスク管理体制の構築や管理計画への記載事項という基本的な枠組みは同法第22条第3号に基づく管理計画の一部として実質的な義務性を帯びる一方、個別の設計上の配慮については「推奨」にとどまる部分もあり、義務的要素と推奨的要素が組み合わされた構造になっている点に注意が必要です。

衝突リスク管理体制とSSAサービスとの情報連携

同ガイドラインでは、事業者に対し、衝突回避運用の担当者設定と指揮命令系統の明確化、「接近情報取得→スクリーニング→リスク評価→リスク緩和」という一連のプロセスの構築を求めています。また、SSAサービスから提供される接近情報メッセージ(Conjunction Data Message、CDM)をタイムリーに受け取る体制の整備、軌道制御を実施する際にSSAサービスへ十分な余裕をもって計画を提供すること、他の運用者から接近情報の照会があった場合には可能な範囲で対応することなども求められています。

そして、制御喪失等の異常が発生した場合には、被害の最小化を優先しつつ関係機関への情報提供を行うことが求められ、事故の規模によっては一般への情報開示も検討事項となります。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
衝突防止ガイドラインには罰則規定そのものはありませんが、管理計画への不記載や実施状況の乖離は、許可条件違反として監督命令や許可取消しのリスクにつながり得ます。社内でCDM受信から回避操作決定までのプロセスを文書化し、誰がいつどのような基準で意思決定したかを記録に残す体制を整備しておくことは、規制対応だけでなく、後述する事故時の民事責任の立証・防御の観点からも極めて重要です。

AIを活用した宇宙交通管制の統制システムと民事責任

AIによる衝突回避判断の意思決定と法的責任の所在

近年、増加する接近情報を人手のみで処理することの限界から、AI・LLMを用いて接近情報のスクリーニングやリスク評価、さらには回避操作の実行判断までを自動化する統制システムの導入が検討されています。

もっとも、日本にはAIによる衝突回避判断を直接規律する特別法は現時点で存在せず、事故が発生した場合の民事責任は基本的に民法の一般原則(不法行為責任・債務不履行責任)と製造物責任法によって処理されることになります。具体的には、AIシステムの判断ミスにより他の衛星との衝突や地上への損害が生じた場合、①衛星運用事業者が民法709条の不法行為責任(自らの過失)ないし前述の管理計画上の義務違反に基づく責任を負う可能性、②AIシステムの設計・製造に欠陥があった場合には製造物責任法3条に基づきシステム開発者(ベンダー)が責任を負う可能性、③使用者責任(民法715条)により、AIシステムを利用する事業者の被用者の過失が事業者に帰属する可能性が、それぞれ問題となり得ます。

なお、法律レベルのものではないものの、2026年4月、経済産業省がAI利活用における民事責任に関する考え方を取りまとめた手引きを公表しました。

経済産業省「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」

当該手引きにおいては、主に不法行為責任に関する整理をしており、A:契約関係に無い第三者と①AIの利用者、②AIの開発者・提供者との間の不法行為責任、及びB:③AIの利用者とAI開発者・提供者との間の不法行為責任の3つのレイヤーにおける損害賠償責任の考え方を整理しています。一方で、契約上の債務不履行責任に関する点はスコープ外としていることから、基本的に契約関係にある場合には私的自治の原則を尊重する形となっているといえるでしょう。詳細は、本記事では割愛します。

自動運転(レベル3/4)における法務リスクとの比較

宇宙交通管制におけるプロダクトやサービスに関する民事責任に係るリスクヘッジを具体的に検討する上で1つの参考になるのが、自動運転分野における責任分配の考え方です。日本では道路交通法・道路運送車両法の改正により、2020年にレベル3(条件付運転自動化)、2023年4月にレベル4(特定自動運行)の公道走行が制度化されました。

自動運転における事故の民事責任は、自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任を基本的な枠組みとしつつ、運行供用者(事業者)がその責任を負ったうえで、システムの設計・製造上の欠陥が認められる場合には製造物責任法に基づき自動車メーカー・システム開発者に対して求償・追及を行うという構造が採用されています。レベル3では緊急時に運転者が対応する義務が残るのに対し、レベル4では運行主体(自動運行実施者)が運行管理の全責任を負う構造となっており、自動化のレベルが上がるほど運用者側の一次的責任が重くなる設計になっている点が特徴です。

宇宙交通管制のAI化についても、現時点で確立した法制度はないものの、この「運用者が一次的責任を負いつつ、開発者の欠陥については製造物責任法で個別に評価する」という自動運転分野の責任分配の考え方は、実務上の参照点として1つの示唆的な整理となりうるでしょう。加えて、経済産業省・総務省が策定する「AI事業者ガイドライン」(2026年3月31日付第1.2版)は、AI開発者・AI提供者・AI利用者という3つの主体に応じた役割分担とリスクベースの対応を求めていますが、法的拘束力を持つものではなく、あくまで民事責任の解釈にあたっての行為規範・注意義務の水準を基礎づける資料として位置づけられる点に留意が必要です。

開発者・運用事業者間の責任分配(契約実務)

以上を踏まえると、AI統制システムを導入する事業者にとって最も重要な実務対応は、システム開発者との契約における責任分配の明確化です。

具体的には、①AIの推奨に対する最終的な回避操作の実行権限・判断権限をどちらが持つか(人間が最終確認するヒューマン・イン・ザ・ループの設計か、完全自動化か)、②AIの誤判断による損害について開発者が負う責任の範囲・上限(責任制限条項)、③AIモデルの学習データ・アルゴリズムの検証記録の保存・開示義務、④インシデント発生時の原因究明への協力義務、を契約書上で具体的に定めておくことが不可欠です。特に完全自動化(人間の介在なしに回避操作を実行する設計)を採用する場合には、運用者側の一次的責任がより重くなる可能性が高いため、開発者との間で技術検証記録の共有と責任分配について慎重な交渉を行う必要があります。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
AI統制システムの導入を検討する際は、技術部門だけで仕様を決定せず、契約段階から法務部門が関与し、「人間の最終確認を要する場面」を契約書とシステム設計の両方に落とし込むことを強くお勧めします。自動運転分野の議論が示すとおり、自動化の水準が上がるほど運用者側の責任は重くなる傾向にあるため、完全自動化を急ぐ前に、責任分配の設計と保険によるリスク移転(後述)をセットで検討することが実務上の鉄則です。

損害賠償リスクとファイナンス上の対応

第三者損害賠償制度(責任保険・供託・政府補償)

宇宙活動法は、打上げ実施者に対し、損害賠償担保措置を講じなければ打上げを行ってはならないと定めています。担保措置としては、①責任保険契約と特定補償契約の締結、②金銭または有価証券による供託、③これらに相当する外国政府の保証等のいずれかを選択することになります。賠償措置額はロケットの種類等に応じて定められ、たとえばH-ⅡA・H-ⅡB・イプシロンといった主要な国産ロケットについてはいずれも200億円とされています。さらに、責任保険では填補できないテロリズム等の特定損害を賠償措置額の範囲内で補償する特定補償契約(必須)と、賠償措置額を超える損害を3,500億円まで補償する超過補償契約(任意)という2種類の政府補償契約が用意されています。

内閣府「第三者損害賠償制度に関するガイドライン」

保険設計における留意点

人工衛星管理段階における損害賠償リスクについても、打上げ段階と同様の考え方が及ぶ可能性があるため、事業者は自社が保有・運用する衛星の特性(軌道、質量、機能停止時の影響範囲)に応じて、必要な保険付保額を個別に検討する必要があります。特に前述のAI統制システムを導入する場合には、AIの誤判断に起因する事故が保険約款上の免責事由(たとえばシステム設計の重大な瑕疵)に該当しないか、保険会社との間で事前に確認しておくことが重要です。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス 保険は「入っていれば安心」というものではなく、約款上の免責事由や填補限度額が自社のリスクプロファイルと整合しているかを個別に検証する必要があります。AI統制システムのように新しいリスク類型を伴う事業については、既存の保険商品でカバーされない可能性もあるため、保険会社・保険ブローカーとの間で早期からリスクの内容を共有し、必要に応じて特約の追加交渉を行うことをお勧めします。

国際的な規制動向と日本企業への影響

米国・EU・国連の動向

軌道利用ルールをめぐっては、各国・地域で規制強化の動きが進んでいます。米国連邦通信委員会(FCC)は2022年9月、低軌道衛星の運用終了後のデオービット(軌道離脱)期限を従来の25年から5年に短縮する規則を採択しました。欧州宇宙機関(ESA)は2022年から2023年にかけて「ゼロ・デブリ・アプローチ」を掲げ、新規衛星について2030年までに軌道上に長期残存させないことを目標とする取組方針を公表しています。さらに欧州連合(EU)は2025年6月に包括的な宇宙法案を発表しており、今後、加盟国域内で活動する衛星事業者に対する統一的な規制の導入が見込まれています。

日本の内閣府タスクフォースの資料でも、こうした国際動向を踏まえ、日本が他国に先駆けて主体的に軌道利用に関するルール作りに取り組む必要があるとの認識が示されています。

大規模衛星コンステレーション規制の方向性

今後の焦点となるのが、大規模衛星コンステレーションに対する規制のあり方です。前述の中長期的取組方針では、国際標準化機構(ISO)や機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)の基準との整合性を確保しつつ、フランス宇宙活動法やEU宇宙法案を参考に、2026年度以降、日本国内における規制方針を具体化していく方向性が示されています。海外で複数国にまたがる形で衛星コンステレーション事業を展開する日本企業にとっては、日本国内の規制動向だけでなく、進出先国・地域の規制との整合性を同時に検討する必要があります。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
国際展開を予定する事業者は、日本の宇宙活動法上の許可を取得しているからといって海外での規制対応が不要になるわけではない点に注意が必要です。特にEUでの事業展開を検討する場合、2025年発表のEU宇宙法案の内容を早期にウォッチし、デブリ抑制基準や保険要件が日本の基準と異なる場合の追加対応コストをあらかじめ事業計画に織り込んでおくことをお勧めします。

企業が今すぐ着手すべき法務・コンプライアンス対応

社内体制整備のポイント

宇宙関連事業に携わる企業が今すぐ着手すべき実務対応として、第一に、衝突回避運用の責任者・指揮命令系統を明確化し、衝突リスク管理プロセス(接近情報取得・スクリーニング・リスク評価・リスク緩和)を文書化した社内規程を整備することが挙げられます。第二に、宇宙活動法の許可条件・管理計画の内容と実際の運用実態に乖離が生じていないかを定期的に点検する、いわば「宇宙版コンプライアンス監査」の仕組みを構築することが重要です。第三に、AI統制システムを導入・検討している場合には、法務部門を交えて開発者との契約における責任分配を再点検し、ヒューマン・イン・ザ・ループの設計方針を明文化しておく必要があります。

契約・保険・データ管理における実務上の留意点

契約面では、衛星の製造委託契約、打上げサービス契約、衛星データにおけるデータ提供契約や業務提携契約、AIシステムの開発・運用委託契約のそれぞれについて、事故発生時の責任分配条項・保険付保義務・データ保存義務を整合的に設計することが求められます。また、SSAサービスとの接近情報のやり取りや、他の運用者との情報共有は、営業秘密や技術情報の管理と衝突回避対応という異なる要請の間でバランスを取る必要があるため、情報共有の範囲・手続をあらかじめ社内規程やNDAで明確化しておくことが望ましいといえます。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
宇宙関連事業における法務対応は、既存の航空・海運・自動車といった分野の判例・実務の蓄積が乏しく、手探りで進めざるを得ない部分が少なくありません。だからこそ、社内だけで判断を完結させず、政策動向や国際的な議論に精通した弁護士を早期から関与させ、規制の変化に応じて柔軟に体制を見直していくことが、将来の紛争リスクを抑える最も確実な方法だと考えます。

まとめ

本記事では、宇宙交通管制(STM)をめぐる日本の法規制について、宇宙基本計画・宇宙安全保障構想といった政策文書から、宇宙活動法上の許可制度、2025年策定の衝突防止ガイドライン、2026年の宇宙活動法改正(令和8年法律第39号)、AI・LLMを活用した統制システム導入時の民事責任の考え方、損害賠償・保険設計、そして国際的な規制動向まで、実務的な観点から整理しました。

宇宙交通管制の分野は、大規模衛星コンステレーションの急速な拡大と国際的なルール形成の途上にあることから、今後も規制内容が短期間で更新されていくことが予想されます。企業としては、一度整備した社内体制に安住するのではなく、内閣府タスクフォースの検討状況や国際的な議論の進展を継続的にウォッチしながら、必要に応じて弁護士等の専門家の助言を得つつ体制を見直していくことが、事業の持続的な成長とリスク管理の両立につながります。


この記事を書いたのは:
川村将輝