【2026年成立】改正宇宙活動法をわかりやすく解説|法律名の変更・ロケット単体打上げの許可制・適合認定制度と企業の実務対応
この記事を書いたのは:川村将輝


導入文
2026年6月11日、宇宙活動法の改正法である「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律等の一部を改正する法律」が国会で成立し、同月17日に公布されました。
今回の改正は、単なる技術的な条文修正ではありません。法律の題名そのものが「宇宙ロケットの打上げ及び特定人工衛星の管理に関する法律」へと改められ、規制の軸足が「人工衛星」から「ロケット」へと移りました。これは、日本の宇宙法制における30年に一度あるかどうかの構造転換です。ロケット開発事業者、衛星事業者、相乗り打上げを利用する事業会社、宇宙スタートアップに出資する投資家、そして宇宙保険を扱う金融機関に至るまで、影響の及ぶ範囲は広範に及びます。
一方で、中間とりまとめの段階で期待されていた包括許可制度や域外適用の導入は、今回の改正では見送られました。「何が変わったか」と同じくらい、「何が変わらなかったか」を正確に押さえておくことが、実務上は重要です。
本記事では、企業法務を専門とする弁護士の視点から、改正の全体像・条文の中身・見送られた論点・そして企業が今すぐ着手すべき実務対応までを整理してご説明します。
なお、当事務所では2025年5月に「【2025最新】宇宙活動法の改正動向をわかりやすく解説|民間宇宙ビジネスにも影響」として、中間とりまとめ段階での改正の方向性をご紹介しました。そちらも適宜ご参照ください。
本記事のポイント
- 改正法は2026年6月11日に成立、同月17日に令和8年法律第39号として公布されました。施行は宇宙基本法の改正部分を除き、公布日から1年を超えない範囲内で政令が定める日とされています。
- 法律の題名が「宇宙ロケットの打上げ及び特定人工衛星の管理に関する法律」に改められ、規制体系が人工衛星中心からロケット中心へ転換されました。
- 人工衛星を搭載しないロケット単体の打上げや、ダミーペイロードのみを搭載して分離しない打上げが、新たに許可の対象となり、あわせて政府補償制度の対象にも加えられました。
- 軌道上で制御されない人工物体(モニュメント、宇宙葬用カプセル等)が「搭載前人工衛星等」として規制対象に取り込まれ、打上げ前の適合認定制度が創設されました。
- 正常分離後の物体については、搭載を委託した者に無過失責任が課されるため、相乗り打上げの契約実務に直接の影響が生じます。
- 再突入許可制度、サブオービタル飛行の規律、包括許可制度、域外適用、宇宙物体登録手続の法定化は、今回は見送られ、次の改正課題として持ち越されました。
- 再使用型ロケット、ロックーン方式、事故報告といった論点は、法改正ではなく施行規則・審査基準・ガイドラインの改正で対応される方針です。施行に向けた下位法令の動きを注視する必要があります。
1.2026年改正宇宙活動法の全体像|閣議決定から公布までの経緯
令和8年法律第39号が成立・公布されるまでのタイムライン
今回の改正法は、2026年(令和8年)3月27日に閣議決定され、第221回国会(特別会)に内閣提出法律案第40号として提出されました。審議は参議院先議で進み、同年4月14日に「デジタル社会の形成及び人工知能の活用等に関する特別委員会」に付託され、4月22日に同委員会で可決、4月24日に参議院本会議で可決されています。その後、衆議院では6月2日に内閣委員会へ付託され、6月10日に委員会可決、6月11日の本会議可決をもって成立しました(参議院「第221回国会 議案情報」)。公布は6月17日、法律番号は令和8年法律第39号です。
内閣府宇宙開発戦略推進事務局は、公布から約3週間後の令和8年7月8日付で改正の概要を公表し、「令和8年6月11日、『人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律等の一部を改正する法律』(令和8年法律第39号。以下『改正法』といいます。)が成立し、同月17日に公布されました」と説明しています(内閣府宇宙開発戦略推進事務局「『人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律等の一部を改正する法律』(令和8年法律第39号)の成立・公布について」2026年7月8日、https://www8.cao.go.jp/space/application/eisei.html )。
審議日程を見ると、参議院での可決から衆議院での付託まで約1か月半の間隔が空いています。特別会という会期の性質上、他の重要法案との調整があったものとみられますが、法案の内容自体について与野党間で大きな対立があったわけではなく、参議院・衆議院ともに委員会付託から可決まで短期間で審議が進んでいます。衆議院内閣委員会では2026年6月10日に質疑が行われ、人工衛星を搭載しないロケットの打上げを政府補償の対象に加えることの当否が取り上げられました。
改正の対象は3本の法律|宇宙活動法・宇宙基本法・内閣府設置法
「等の一部を改正する法律」という題名が示すとおり、今回の改正法は複数の法律を同時に改正する束ね法案です。改正対象は次の3本です。
- 宇宙活動法(人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律。平成28年法律第76号)――題名の変更を含む全面的な組み替え
- 宇宙基本法(平成20年法律第43号)――基本的施策への追加
- 内閣府設置法(平成11年法律第89号)――宇宙政策委員会の所掌事務の拡充
実務上の影響が最も大きいのは当然ながら宇宙活動法の改正部分ですが、宇宙基本法と内閣府設置法の改正は、国の宇宙政策の重点がどこに置かれるかを示すシグナルとして読むべきものです。とりわけ宇宙基本法の改正では、「ロケットの開発等に必要な機器、技術等の研究開発の推進等」が基本的施策に追加され、あわせて宇宙開発利用における「公共の安全の確保」が明記されました。予算措置や宇宙戦略基金の運用方針に影響し得る改正です。
施行期日・経過措置・検討規定
施行期日について、附則第1条は「この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定めています。ただし宇宙基本法に係る改正部分は公布の日(2026年6月17日)から既に施行されています。内閣府の公表資料も、「・宇宙基本法に係る改正 公布の日/・上記以外の改正 公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」と整理しています(前掲・内閣府「成立・公布について」2026年7月8日)。
したがって、宇宙活動法本体の改正は、遅くとも2027年6月16日までには施行されることになります。施行期日を定める政令が公布されれば、そこから逆算して準備期間が確定しますので、宇宙関連事業を行う企業は政令の動向を継続的に確認しておく必要があります。
経過措置としては、施行前に既に軌道等に投入・配置された人工衛星の管理について従前の例によるとする規定、罰則の適用に関する経過規定、その他必要な経過措置を政令に委任する規定が置かれています。また附則には検討規定が設けられ、政府は施行後3年を目途として施行状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは所要の措置を講ずるものとされました。現行法の「施行後5年」の見直し規定より短い期間が設定されている点は、今回の改正が「段階的な制度改正」の一里塚として位置づけられていることの表れです。
弁護士の一言アドバイス
今回の改正は、許可の対象範囲そのものが広がる改正ですから、施行日以降に予定している打上げ・衛星運用の計画が新たに許可を要することにならないか、今のうちに棚卸しをしておくとよいでしょう。特に2027年に試験打上げや実証ミッションを予定している事業者は、許可申請から審査完了までのリードタイムを事業計画に織り込む必要があります。あわせて、附則の経過措置がどこまで自社の既存ミッションをカバーするのか、政令案のパブリックコメント段階で確認しておくことをお勧めします。
2.改正の出発点|2025年12月「最終とりまとめ」が示した方向性
宇宙活動法の見直しに関する小委員会と改正ワーキンググループ
今回の改正法の内容は、突然に立案されたものではありません。内閣府宇宙政策委員会の下に2024年9月に設置された「宇宙活動法の見直しに関する小委員会」および同小委員会の下に置かれた「宇宙活動法改正ワーキンググループ」において、1年以上にわたって積み上げられた議論の帰結です。
小委員会は2024年9月26日の第1回会合を皮切りに、JAXA、三菱重工業、インターステラテクノロジズ、ElevationSpace、SPACE WALKER、アストロスケール、Synspective、経団連といった事業者・団体からのヒアリングを重ね、2025年3月に中間とりまとめを公表しました。その後さらに議論を深め、2025年12月1日の第9回会合で最終とりまとめ案を審議し、同年12月9日開催の宇宙政策委員会第120回会合において「宇宙活動法の見直しの基本的方向性 最終とりまとめ」が資料1-2として報告されています
内閣府宇宙政策委員会「第120回会合 議事次第・配布資料」2025年12月9日
最終とりまとめの構成|4段階に仕分けされた論点
最終とりまとめの最大の特徴は、検討された論点を「対応の緊急度」と「法改正の要否」という2つの軸で明確に仕分けした点にあります。具体的には、次の4つのカテゴリーに整理されました。
- 早急に法改正を行うべき事項――ロケット単体・ダミーペイロード搭載打上げの許可対象化、人工衛星に該当しない物体の規制対象化、これらに伴う損害賠償制度の拡充
- 早急に法改正を行うべきであるものの更なる論点整理が必要な事項――再突入行為への対応、サブオービタル飛行の規律
- 施行規則や審査基準の改正等により実現を図るべき事項――有人宇宙飛行・輸送制度、再使用型ロケット、ロックーン方式、許可手続の簡素化・迅速化、事故対応の在り方
- 更なる検討が必要な事項――日本人・日本法人が本邦領域外で行う打上げ等の規律、宇宙物体登録手続
今回成立した改正法に盛り込まれたのは、基本的に第1カテゴリーの事項です。第2カテゴリー以下は、法改正の必要性自体は認識されつつも、制度設計に時間を要する、あるいは立法事実が未成熟であるとして先送りされました。この「仕分け」の構造を理解しておくと、改正法の射程と限界が明快に見えてきます。
最終とりまとめが示した基本的な問題意識
最終とりまとめは、日本の宇宙活動を取り巻く環境変化について、率直な危機感を示しています。2024年の人工衛星搭載ロケットの打上げ成功回数は、米国153回、中国66回であるのに対し、日本は5回にとどまっており、国際競争力の強化が急務であるとされました。同時に、打上げ価格の低廉化により、「制御されないモニュメントや研究用の人工の物体が地球を回る軌道又はその外に投入される」といった、従来想定されていなかった打上げが現実化していることが指摘されています。
内閣府「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律等の一部を改正する法律案の概要」2026年3月
また、宇宙条約第6条に基づき、日本は非政府団体である民間事業者の宇宙活動についても国際的責任を負うという点が、規制の正当化根拠として繰り返し確認されています。規制強化それ自体が目的ではなく、国際法上の責任履行と公共の安全確保という目的から、規制の網の目をどこに張るかを再設計したのが今回の改正である、というのが最終とりまとめの基本的な立場です。
中間とりまとめから最終とりまとめへ|トーンダウンした論点
2025年3月の中間とりまとめの段階では、複数回の打上げを1つの許可でカバーする包括許可制度や、日本人・日本法人が海外で行う打上げへの域外適用の拡大について、前向きな検討が示唆されていました。実際、当事務所の2025年5月の記事でも、これらを改正の柱の候補としてご紹介していました。
しかし最終とりまとめは、包括許可制度について、日本ではロケットの飛行経路や安全確保方策が「標準化・定型化している」といえる状況に至っていないこと、事業者の安全確保能力を担保する仕組みの構築には産業界の知見蓄積が不十分であること、体制整備・維持のコストがかえって民間の事業活動の自由を制限しかねないこと、さらに反復継続的な活動の審査は事実上の「業規制」にあたり行為許可の包括化を超える議論を要すること、といった理由を挙げて導入を見送りました。当面はガイドラインの修正と運用の効率化で対応するとされています。
域外適用についても、日本法人が現地法人を介さずに他国領域内で直接打上げを行うことは考えにくく、現時点で具体的計画を有する企業が存在しないこと、本邦領域外の行為について立入検査等の監督権限や刑罰権の執行管轄権を行使できず許可制度の実効性を確保できないこと、条約上明示的に義務付けられている場合等を除き本邦領域外の行為を許可制で規制する立法例が存在しないことを理由に、中長期的課題として整理されました。
3.改正の第一の柱|「人工衛星中心」から「ロケット中心」の規制体系へ
法律の題名変更が意味するもの
今回の改正で最も象徴的なのが、法律の題名の変更です。改正法により、宇宙活動法の題名は「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」から「宇宙ロケットの打上げ及び特定人工衛星の管理に関する法律」へと改められます。参議院の議案要旨も、改正内容の第一項目として「題名を『宇宙ロケットの打上げ及び特定人工衛星の管理に関する法律』に改める」と明記しています(参議院「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律等の一部を改正する法律案 議案要旨」2026年)。
この変更は、単なる名称の付け替えではありません。現行法は「人工衛星等の打上げ」という行為を規制の単位とし、人工衛星を軌道に投入して分離することを打上げの終点=責任の分界点としていました。裏を返せば、人工衛星を搭載しない打上げは、物理的な危険性が同等であっても法の対象外だったわけです。改正法は、規制の着眼点を「軌道に投入される人工衛星」から「打ち上げられる宇宙ロケット」そのものへ移すことで、この構造的な隙間を埋めました。
また、改正後の法律の第2章は「宇宙ロケットの打上げ」と題され、第1節「宇宙ロケットの打上げの許可」、第2節「宇宙ロケットの設計の確認」、第3節「打上げ施設の適合認定」、第4節「搭載前人工衛星等の適合認定」、第5節「国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構による申請手続の特例」という構成に組み替えられます。第3章は「特定人工衛星の管理」となり、管理許可の対象が明示的に「特定人工衛星」に限定されました
内閣府「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律等の一部を改正する法律案」2026年3月27日
新たに導入・整理された定義|宇宙ロケット・人工衛星等・特定人工衛星・搭載前人工衛星等
規制体系の転換に伴い、第2条の定義規定が大きく組み替えられました。実務上、押さえておくべき主要な定義は次のとおりです。
宇宙ロケット――「地球から発射するロケットであって、発射した場合に地球を回る軌道若しくはその外又は地球以外の天体に達する推力を有するもの」と定義されました(前掲・法律案本文)。ポイントは「推力を有するもの」という機体性能に着目した定義になっている点です。実際に軌道に到達したかどうか、何かを搭載していたかどうかを問わず、軌道到達能力を有するロケットの打上げであれば規制対象に取り込まれます。逆にいえば、軌道到達能力を有しない観測ロケット等(サブオービタルロケット)は、この定義から外れることになります。
人工衛星等――従来の「人工衛星」概念を拡張し、地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置する人工の物体を広く包含する概念として整理されました。「軌道上で使用することを目的として設計・製造されたもの」という限定が外れたことが決定的に重要です。
特定人工衛星――「人工衛星のうち、その位置、姿勢及び状態を制御することができるもの」と定義されました(前掲・法律案本文)。従来の管理許可制度が想定していた、地上から制御される人工衛星がこれに当たります。第3章の管理許可の対象は、この特定人工衛星に限定されます。
搭載前人工衛星等――「人工衛星等(特定人工衛星を除く。)であって、宇宙ロケットに搭載する前のもの」と定義されました(前掲・法律案本文)。制御機能を持たない物体を、打上げ前の段階で捕捉するための概念です。後述する適合認定制度の対象となります。
これらの定義を整理すると、改正後の規制構造は次のように整理できます。すなわち、①軌道到達能力のあるロケットの打上げは、搭載物の有無を問わず打上げ許可の対象となる、②搭載物のうち制御可能なものは「特定人工衛星」として管理許可の対象となる、③制御できないものは「搭載前人工衛星等」として打上げ前の適合認定の対象となる、という三層構造です。
ダミーペイロード打上げ・ロケット単体打上げが許可対象に
改正の実務的な目玉が、人工衛星の搭載又は分離を伴わない打上げの許可対象化です。参議院議案要旨は「人工衛星の搭載又は分離を伴わない宇宙ロケットの打上げを許可対象に追加し、損害賠償制度の対象に追加する」と整理しています(前掲・参議院議案要旨)。
ここで想定されているのは、大きく2つの形態です。1つは、H3ロケット試験機2号機のように、実際の人工衛星の代わりに同等の寸法・質量のダミーペイロードを搭載し、軌道投入後も分離せずに終わる打上げです。もう1つは、人工衛星もダミーペイロードも搭載しない、ロケット単体での打上げです。いずれも、点火装置・エンジン性能・段間分離といったシステム全体を検証するための試験打上げとして、開発段階では極めて合理的な選択肢となります。
最終とりまとめは、これらの打上げについて「飛行中断措置等によって人工衛星を失うリスクを避けるため、人工衛星を搭載せずに軌道投入ロケットの打上げを行い、その性能や安全性を確認することで軌道投入ロケットの打上げに係る技術の確立を目指すことが合理的な場合がある」と述べ、その必要性を積極的に認めています。
内閣府宇宙政策委員会宇宙活動法の見直しに関する小委員会「宇宙活動法の見直しの基本的方向性 最終とりまとめ」2025年12月
そのうえで、これらの打上げは飛行経路・到達高度・速度・推進薬搭載量等が人工衛星を搭載した打上げと同等であることから、公共の安全等を確保するため許可の対象とする必要があるとしました。
企業にとっては、規制強化という側面と、規制の受け皿ができたという側面の両方があります。従来、ロケット単体の試験打上げは法の対象外でしたが、それは「自由にできる」ことを意味すると同時に、政府補償の対象にもならず、事故時のリスクを事業者が丸抱えすることを意味していました。改正により許可を要することになる代わりに、後述する政府補償制度の対象にも加えられます。開発途上のロケット事業者にとっては、実質的にリスクテイクの条件が改善されたと評価できます。
弁護士からの一言アドバイス
「宇宙ロケット」の定義が機体の推力性能に着目している点は、社内の技術部門と法務部門で認識を共有すべき重要ポイントです。実際の飛行計画が軌道投入を予定していなくても、機体が軌道到達能力を有していれば規制対象に入り得るという整理になるためです。開発中の機体について、どの段階から許可申請が必要になるのかは、設計仕様の詰め方によって変わってきます。私が実務でお勧めしているのは、機体の性能諸元と飛行プロファイルを一覧化した「規制該当性マトリクス」を作成し、設計変更のたびに更新することです。技術部門の判断だけで「これは対象外」と結論づけると、後から無許可打上げの問題に発展しかねません。判断に迷う場合は、内閣府宇宙開発戦略推進事務局への事前相談を積極的に活用してください。
4.改正の第二の柱|制御されない人工物体への適合認定制度の創設
モニュメント・宇宙葬用カプセルまでが規制対象に
改正のもう一つの柱が、軌道上で制御されない人工物体を規制の網に取り込んだことです。参議院議案要旨は「地球を回る軌道等で制御されない人工物について、基準適合認定制度を創設し、落下等による損害賠償対象に追加する」と整理しています(前掲・参議院議案要旨)。
最終とりまとめは、この問題を次のように説明しています。すなわち、「モニュメントや宇宙葬用のカプセル等、現行の宇宙活動法上の『人工衛星』に該当するか必ずしも明らかでない物体が存在する」という現状認識を出発点に、こうした物体であっても「我が国が宇宙条約等の国際法上の責任を負う点や地上に落下して被害を与える危険性においては現行の宇宙活動法上の『人工衛星』と変わらない」として、規制の必要性を導いています(前掲・最終とりまとめ2025年12月)。
打上げ価格の低廉化により、気象衛星や通信衛星のような社会インフラとしての衛星だけでなく、記念モニュメント、遺灰を納めたカプセル、大学や高校の教育目的の物体といった、多様な物体が軌道に投入される時代になりました。これらは軌道上で「使用」されるわけではないため、現行法の「人工衛星」の定義に当てはまるかが不明確でした。改正法は、この解釈上のグレーゾーンを立法により解消したことになります。
搭載前人工衛星等の適合認定制度
もっとも、制御できない物体に対して「管理許可」を課しても意味がありません。地上から制御できない以上、管理計画や終了措置を求めることは不可能だからです。そこで改正法は、管理許可とは別に、打上げ前の段階で物体の構造が基準に適合していることを確認する適合認定制度を新設しました。
この制度は、改正後の第2章第4節「搭載前人工衛星等の適合認定」として、第18条の2から第18条の4までの3か条で構成されます(前掲・法律案本文)。第18条の2が適合認定の申請・基準・手続を定め、第18条の3が認定を受けた事項を変更する場合の変更認定を、第18条の4が認定の取消事由をそれぞれ規定する構造です。認定の基準は、物体の構造が宇宙空間の有害な汚染等の防止に関する基準に適合していることとされています。
制度設計上、重要なのは認定の名宛人です。法律案本文では、「搭載前人工衛星等について所有権その他の管理の権原を有する者」が申請主体とされています。つまり、ロケットの打上げ実施者ではなく、物体を保有する側が認定を取得することが想定されています。相乗り打上げで自社の物体を軌道に載せようとする事業者は、自ら認定手続の当事者になる可能性がある、ということです。
投入先の軌道に応じた基準と軌道変更の取扱い
最終とりまとめは、規制内容を投入先ごとに精緻化すべきだとしています。「『人工衛星』を投入等する場所(地球周回軌道(低軌道~静止軌道)、月面・月周回軌道、深宇宙等)により宇宙空間の有害な汚染等の防止及び公共の安全の確保に求められる内容は当然異なる」として、施行規則・審査基準を投入先別に整備し、投入先を変更する場合には許可を要する制度とすべきだとしています(前掲・最終とりまとめ2025年12月)。
これは、軌道間輸送機(OTV)や月面輸送機を用いるミッションに直接関わる論点です。低軌道に投入した後に月周回軌道へ遷移させるようなミッションでは、当初の許可・認定の射程を超える可能性が生じます。具体的な線引きは施行規則と審査基準に委ねられるため、この点も下位法令の動向を注視すべき領域です。
弁護士の一言アドバイス
適合認定制度は、これまで宇宙法制とは無縁だと考えていた企業を当事者にしてしまう制度です。宇宙葬サービス、記念品の軌道投入サービス、企業のブランディング目的の宇宙プロジェクトなど、B2Cに近い事業を手がける会社ほど注意が必要です。実務で最初に確認するのは、「その物体について所有権その他の管理の権原を有するのは誰か」という点です。エンドユーザーの遺灰や記念品を預かって打ち上げるビジネスモデルでは、所有権の所在が契約上明確になっていないケースが散見されます。適合認定の申請主体を誰にするのか、認定が得られなかった場合にエンドユーザーへの返金や再打上げをどう処理するのかを、利用規約や個別契約にあらかじめ落とし込んでおいてください。
5.改正の第三の柱|損害賠償・政府補償制度の拡充
前提となる現行の第三者損害賠償スキーム
改正内容を理解する前提として、現行法の第三者損害賠償スキームを確認しておきます。現行法は、人工衛星等の打上げを行う者に対し、ロケット落下等損害について無過失責任を課すとともに、責任を打上げ実施者に集中させています(第35条)。打上げ実施者は、許可を受けた打上げの前に損害賠償担保措置を講ずる義務を負い(第9条)、具体的には責任保険契約や補償契約の締結、または供託によってこれを履行します。
さらに、民間の保険では担保しきれない損害について、政府が打上げ実施者との間で補償契約を締結することができます(第40条)。内閣府のガイドラインによれば、賠償措置額は規則の別表で機体ごとに定められ、H-ⅡA、H-ⅡB、イプシロンの各ロケットについて200億円とされています。政府補償は、賠償措置額までを対象とする特定補償契約と、賠償措置額を超える部分を対象とする超過補償契約から成り、1回の打上げあたりの補償限度額は3,500億円です。
なお、一会計年度内に締結する補償契約の契約金額の合計額は、国会の議決を経た金額の範囲内とされています(第43条)。
他方、人工衛星の管理者については、人工衛星落下等損害に関する無過失責任は課されているものの(第53条)、損害賠償担保措置義務や政府補償の対象とはされていません。落下による危険性の程度が打上げ時とは異なると評価されているためです。
ロケット単体・ダミーペイロード打上げへの拡大
改正法は、この枠組みを新たに許可対象となる打上げにも及ぼしました。最終とりまとめは、「軌道投入ロケット単体を打ち上げる行為や人工衛星を分離しない軌道投入ロケットを打ち上げる行為のような、人工衛星等の打上げ以外の軌道投入物のある軌道投入ロケットを打ち上げる行為は、人工衛星等の打上げと同等の危険性を有する」との評価を前提に、被害者保護の観点から、これらの打上げを行う者にも損害賠償担保措置義務を課し、無過失責任を課したうえで、政府補償制度を前提として責任を集中させるべきだとしました(前掲・最終とりまとめ2025年12月)。
実務的な意味は大きく、開発段階の試験打上げが政府補償のスキームに乗ることになります。従来、ロケット単体の打上げは法の対象外であったため、民間保険で手当てするほかなく、しかも実績のない新型機については保険の引受け自体が困難でした。改正により、試験打上げについても3,500億円の政府補償を前提とした責任集中の枠組みが利用できるようになるため、新規参入事業者の資金調達やプロジェクトファイナンスの前提条件が改善されます。
分離の前後で変わる責任主体|搭載委託者の無過失責任
制御されない人工物体の落下等による損害については、より複雑な責任の切り分けがなされました。最終とりまとめは、軌道投入ロケットからの分離の前後で責任主体を区別しています。
すなわち、分離が予定されていない物体(ダミーペイロード、分離しないモニュメント等)や、正常な分離の前に落下した物体については、「当該物体を搭載した軌道投入ロケットの打上げを行う者に対し、損害賠償担保措置を講ずる義務を課した上で、当該物体の落下等による損害の賠償について無過失責任を課すとともに、政府補償制度を前提として当該損害を賠償する責任を集中すべき」とされました。他方、正常に分離された後の物体については、「当該物体を地球を回る軌道等に投入することを委託した者に対し、当該物体の落下等による損害の賠償について無過失責任を課すべき」とされています(前掲・最終とりまとめ2025年12月)。
後者について損害賠償担保措置義務や政府補償が及ばないのは、分離後に軌道上にある物体が地上に落下する危険性は、打上げ時にロケットや搭載物が落下する危険性と同等とは評価し難いという理由によります。現行法における人工衛星落下等損害の扱いと平仄を合わせた整理です。
ここで見落とされがちなのが、無過失責任を負う「委託した者」の範囲です。相乗り打上げでモニュメントや教育用の物体を軌道に投入した企業は、その物体が将来落下して第三者に損害を与えた場合、過失の有無を問わず賠償責任を負う立場に立ちます。しかも、その責任について政府補償はありません。企業のPR目的で軽い気持ちで参加した宇宙プロジェクトが、長期にわたる潜在債務を生む可能性がある、ということです。
弁護士の一言アドバイス
相乗り打上げの契約審査では、「分離の前後で責任主体が入れ替わる」という改正法の構造を、そのまま契約条項に反映させる必要があります。具体的には、①分離の成否をどの時点・どの記録で確定するか、②分離後の物体に起因する第三者損害について打上げ事業者と搭載委託者のいずれが一次的に対応するか、③搭載委託者側で付保すべき保険の種類と期間、④求償の可否と限度、という4点を必ず明文化してください。特に③は盲点で、政府補償が及ばない領域である以上、賠償責任保険を軌道上滞在期間全体にわたって維持できるかが実質的なリスクヘッジの成否を分けます。会計処理の面でも、長期の潜在債務として偶発債務の開示が必要になる可能性がありますので、経理部門・監査法人との事前調整をお勧めします。
6.今回見送られた論点|次の改正の見取り図
再突入許可制度――知見の蓄積を待って導入
最終とりまとめは、再突入機器を大気圏に意図的に再突入させ着陸・着水させる行為について、人工衛星管理許可とは独立した再突入許可制度の導入が必要になり得るとしつつ、「米国事業者の米国における初飛行が延期される等、このような再突入行為に関する知見の獲得に支障が生じており、再突入許可に関する具体的な制度設計の検討には更なる時間を要する状況にある」として、今回の法改正には盛り込まないこととしました(前掲・最終とりまとめ2025年12月)。あわせて、①管理の終了措置との関係、②「人工衛星」とは別の定義を設けるべきか、③本邦領域外への制御着陸を含めるか、④許可の取得時期を軌道投入前とするか再突入前とするか、⑤不許可時に既に軌道上にある機器をどう扱うか、という5つの論点が明示されています。
サブオービタル飛行――高度による線引きという難題
サブオービタル飛行についても、法制化は見送られました。最大の障害は、「軌道投入」というメルクマールが存在しないため、規制対象と対象外を切り分ける基準を立てにくいことです。高度80~100キロメートルで区切る案は、宇宙空間と空域の境界が国際的に画定されていない中で境界線を引くことになるという問題を抱え、高度20~50キロメートルで区切る案は、HAPSや高高度気球まで宇宙活動法の対象に取り込んでしまうという問題を抱えます。最終とりまとめは、当面の対応として法規制ではなく、安全確保に関する推奨事項をまとめた手引書を作成し、事業者にこれに従うよう促すべきだとしています。
有人宇宙飛行――「過剰な規制は避ける」という判断
有人宇宙飛行についても、搭乗者の安全確保を保護法益とする規制の導入は「時期尚早」とされました。理由として、今後数年以内に国内で行われる有人ロケットの打上げは、研究開発・実証段階として「リスクを承知し訓練された者(スペシャリスト)」のみが搭乗するものが想定されること、ロケットの打上げが危険であることは広く認知されており、それと知らずに搭乗する者は想定されないことが挙げられています。もっとも、現行法上も「人工衛星」は無人のものに限定されておらず、改正後は搭載物のないロケットの打上げも許可対象となるため、有人ロケットの打上げ許可は制度上想定されていくことになります。
その他の持ち越し論点
このほか、包括許可制度、打上げ場所(射場)に係る独立の許可制度、日本人・日本法人の域外活動への規律、宇宙物体登録手続の法定化が、いずれも今回は見送られました。射場のライセンス制度については、日本では射場設備の汎用化が検討・開発段階にあり、ロケットと切り離して独自に審査するための安全基準を定めることが困難であるため、現時点で制度を設ける必要性は低いと整理されています。宇宙物体登録については、国際的な統一ルールが策定される状況となった場合に、国際的な調和の観点から法制化を検討すべきだとされました。
7.施行規則・審査基準・ガイドラインで動く実務
再使用型ロケット――降下・回収地点の安全基準を明文化
最終とりまとめは、再使用段を有するロケットの打上げについて「現行の宇宙活動法上、人工衛星の打上げ用ロケットに再使用段を有するロケットが含まれることは必ずしも排除されていない」として、法改正を要さず適用可能であるとの整理を示しました。そのうえで、再使用段の降下・回収地点周辺の安全確保に関する基準が現行の審査基準に存在しないことを問題とし、審査基準およびガイドラインに明示的に規定すべきだとしています。具体的には、着地予想区域の設定、傷害予測数の計算と想定される第三者被害規模の把握、飛行中断措置や着地予想区域の再設定を含む異常時対応計画の事前策定が挙げられています。
ロックーン方式――気球の特性に応じた審査基準
気球でロケットを上昇させて空中で点火するロックーン方式については、気球に動力装置がなく水平方向の移動を制御できないため、他の打上げより広範囲に警戒区域を設定する必要があること、ロケットだけでなく気球の設計の安全性も審査する必要があることが指摘されました。他方、国内から放球して領域外で点火する場合に「国内に所在する打上げ施設」を用いた打上げとして捕捉できるかという法制上の論点は、引き続き検討課題とされています。
事故報告・事故時の対応措置――法定義務ではなく手引書で
事故報告について、最終とりまとめは法令上の報告義務を課さない方針を示しました。理由として、都度許可制の下では義務違反時に既に打上げが終了しているため許可の取消し等の担保手段を設けにくいことが挙げられています。代わりに、「事故・重大インシデント」の分類を定めたうえで、報告が期待される標準的な情報を整理した手引書を作成し、事業者と国とのコミュニケーションの円滑化を図るべきだとされました。事故時の対応措置義務についても、事故が起こり得る場所が広範にわたるため法令による強制は困難であるとして、推奨事項の作成にとどめる方向です。
8.企業に求められる実務対応|立場別チェックリスト
ロケット打上げ事業者
第一に、開発計画上の試験打上げが新たに許可対象となるかを確認し、許可申請のスケジュールを事業計画に組み込むことです。第二に、損害賠償担保措置の手当てです。試験打上げも政府補償の対象となる一方、賠償措置額に相当する責任保険または供託の準備が前提となります。保険ブローカーとの協議を早期に開始してください。第三に、社内の許可申請体制の構築です。都度許可が維持される以上、申請ノウハウの属人化はリードタイムの直接のリスク要因になります。
衛星事業者・搭載委託者
制御可能な衛星は「特定人工衛星」として従来どおり管理許可の対象となりますが、制御機能を持たない物体を軌道に投入する場合は、適合認定の取得主体が誰になるのかを確認する必要があります。また、正常分離後の物体について搭載委託者に無過失責任が課される点は、相乗り打上げを利用するすべての企業に関わります。自社が「委託した者」に該当するかを、打上げ役務契約の当事者構成に照らして確認してください。
投資家・金融機関・保険会社
デューデリジェンスの観点では、投資先の打上げ計画が改正後に許可を要するか、許可取得の見込みはどうか、損害賠償担保措置のコストが事業計画に織り込まれているかが確認事項になります。とりわけ、政府補償の対象外である「分離後の物体に係る無過失責任」は、簿外の潜在債務として認識されにくいため、質問項目に加えるべきです。
契約実務における主な見直しポイント
- 打上げ役務契約における許可取得義務の主体と、不取得の場合の解除・費用負担
- 搭載物の適合認定の取得責任と、不認定時のリスク分担
- 分離の成否の確定方法と、分離前後での責任の切替え条項
- 第三者損害に関する相互免責(クロスウェーバー)条項の射程と、無過失責任との整合
- 付保義務の内容・期間(軌道上滞在期間全体をカバーするか)
- 法令変更条項――施行日や下位法令の内容確定に伴うコスト増の負担者
弁護士からの一言アドバイス
宇宙関連の契約実務では、欧米の標準的な契約書式をそのまま翻訳して使っている例が今なお多く見られます。しかし、日本の宇宙活動法は無過失責任と責任集中、そして政府補償という独特の組み合わせを採用しており、米国の制度とは前提が異なります。改正によって責任主体の切り分けがさらに細かくなった以上、既存の契約書式を機械的に流用することのリスクは高まりました。私が実務で必ず確認するのは、クロスウェーバー条項が「誰と誰の間で」「どの損害について」機能するのかという射程です。改正法の下では、打上げ実施者・搭載委託者・物体の権原者という三者が登場し得ますので、二当事者を前提とした条項では手当てが漏れます。既存契約についても、法令変更条項を根拠に再交渉できる余地がないか、この機会に点検されることをお勧めします。
