交通事故の高次脳機能障害、記憶力が悪くなる・人格が変わる

この記事を書いたのは:旭合同法律事務所(名古屋)

高次脳機能障害という病名を聞いたことがありますか。
交通事故などの後で怪我が治ったのに、「記憶力が悪くなった」「人格が変わってしまった」というようなことがあります。
これは脳を損傷した結果出てくる後遺障害です。

自賠責保険でも後遺症として認められており、一定の要件を満たす場合にはその程度によって相当の保険金が支給されます。
ただ表面的には事故前の元の状況に戻ったように見えるので見過ごされてしまうことがあります。
私が相談を受けたケースでも話を聞いているうちに『ひよっとしたら高次脳機能障害ではないか』と感じて病院へ行くようアドバイスしたところ、後日、『病院で高次脳機能障害と診断されました』との報告を受けたことが数回ありました。

なお高次脳機能障害は外傷による場合だけでなく脳血管障害で引き起こされる場合もありますので事故から長時間が経過すると事故によるものであると断定が困難になる可能性もありますので早めの検査が大切と思われます。

高次脳機能障害の人は全国で50万人以上いると言われています。

脳の外傷のほか、脳卒中が原因となって発症することもあります。

その他にも脳炎、脳腫瘍、パーキンソン病などによって生じることもあります。

高次脳機能とは、言語、動産、認知にかかわる全ての機能の事です。

脳のどの部分が損傷するかによって症状が異なってきます。

例えば前頭葉の損傷なら元気が無い、落ち込むことが多いなど、頭頂葉の損傷なら道に迷うなど、側頭葉の損傷なら数字が分からないなどです。

高次脳機能障害の特徴的な症状としては、以下のように幾つかの代表的なものがあります。事故後に該当するものがあれば検査が必要と思われます。
① 易疲労性(覚醒の低下) 精神的にも肉体的にも疲れやすい
② 脱抑制 いつもイライラしていて感情のコントロールができない
③ 意欲・発動性の低下 やる気がおきない。うつ病と間違われやすい
④ 集中力の低下 結果的に作業に時間がかかることになります
⑤ 失語症 会話や読み書きがうまくできない
⑥ 記憶障害 新しいことを覚えたり暗記できない
⑦ 遂行機能障害 段取りを組んでそのとおりに物事を進めることが出来ない
⑧ 半側空間無視 損傷した脳の部位と反対側の空間や身体部位を認識しない
⑨ 病識の欠如 自分の障害について自覚が無く説明できない
⑩ 失見当識 日付、時間、場所の感覚が無く自分の置かれている状況が認識できない

交通事故と高次脳機能障害との因果関係

交通事故による高次脳機能障害であることの証明

交通事故による高次脳機能障害と言えるためには一般的に以下の3点が重要になります。

1、意識障害の有無と程度

外傷後、意識障害が6時間以上あると永続的な高次脳機能障害が残ると言われています。
したがって自賠責では、意識障害が6時間以上もしくは健忘あるいは軽度意識障害が少なくとも1週間以上続いていることを確認するようです

2、画像所見の有無

画像としては、急性期の脳内の点状出血が認められると器質的損傷が疑われるとされています。
そのため早期にCTやMRIの検査がされることが望ましいと言われています。また脳室拡大・脳委縮の有無も器質的損傷の有無の判断に重要です。

3、他の疾病との識別

高次脳機能障害は外傷性でない物もあるので外傷性のものといえるかは、事故後の経過等が重要となるようです。
一般には外傷を契機に発現し、軽減しながら固定するので、外傷後、数か月以上経て高次脳機能障害を発現し増悪したようなケースでは他の原因が疑われるとされています。

高次脳機能障害をうかがわせる症状とは

高次脳機能障害を疑わせる症状

交通事故によって高次脳機能障害を発症することがあります。
時に医師に見落とされることもあるようです。

一般に脳外傷による高次脳機能障害を有する方は次のような症状が見られます。

1、知的障害

物忘れや今聞いたことが覚えられない。集中ができない。計画的行動・並行的行為ができない。自分の障害程度を過少に評価する(病歴の欠如等)

2、性格・人格変化

過剰動作・大声を出す。ちょっとしたことで感情が変化する。
攻撃的言動の増加。自発性の低下。羞恥心の低下。強い嫉妬・被害妄想。わがままになる。
なお知的障害部分は小さくても、性格・人格変化が大きいと社会復帰の妨げとなります。

高次脳機能障害の画像所見

画像としては、脳の局所の出血や脳浮腫、脳の全般性の委縮所見が必要です。

このような兆候を発見するためには受傷一日目を除けば、MRIが最も有用だそうです。

急性期のCTで認められなかった損傷が後からMRIでわかることもあるそうです。

外傷直後は、CTスキャンの方がわかりやすいことが多いそうです。

またPET・SPECTなどの脳血流量の画像で脳の血流低下を確認できますが、脳の局所性血流低下はうつ状態などの時も生じるので必ずしも脳の器質的損傷を示すことにはならないようです。

自賠責保険の高次脳機能障害認定のポイント

自賠責で高次脳機能障害が認められるためには、次の3要件が必要だと言われています。

①障害を裏付ける画像所見の存在
脳挫傷、くも膜下血腫、硬膜下血腫、点状出血等の脳の受傷を裏付ける画像、あるいは脳萎縮、脳室拡大等の脳に障害が残存していることを推測させる画像が存在すること

②相当程度の意識障害の存在
頭部外傷後に重い意識障害が6時間以上あったか、軽い意識障害が1週間以上継続したこと

③特徴的な精神症状の存在
物の保管場所を忘れてしまう、新しく経験したことを覚えていることが出来ないなどの認知障害、すぐに怒ったりするなど感情のコントロールが利かなくなるなどの人格変化

強い意識障害・画像所見がなくても高次脳機能障害を認定した裁判例

自賠責実務の認定ポイントである、①障害を裏付ける画像所見、②相当程度の意識障害が存在しないと、高次機能障害を認めないというといのが裁判所の全体的な傾向です(但し、この場合でも非器質性の精神障害が認められるケースはあります)。

しかしながら、そのような中でも、上記2つの要件が不十分でも高次脳機能障害を認めた裁判例があります。

① 東京高裁平成22年9月9日判決
「控訴人が本件事故後に実況見分に立ち会って警察官に対して指示説明をし、その後自ら車を運転して帰宅したとしても、すなわち、本件事故直後には強い意識障害はなかったとしても、また、CT検査やMRI検査の画像所見において異常所見が認められないとしても、…軽度外傷性脳損傷においては事故後すぐに症状が現れるとは限らず遅発性に現れることもあるというのであり、また、軽度外傷性脳損傷の場合には必ず画像所見に異常が見られるということでもないというのであるから、上記事実をもって本件事故により脳幹部に損傷を来した事実を否定することはできない」

② 大阪高裁平成21年3月26日判決
「確かに自賠責保険における一律的、画一的な高次脳機能障害の認定においては、客観的な基準を重視し、異常所見を必要とすることは有効ではあるが、CT、MRI、PET検査によって器質的損傷のデータが得られない場合でも脳外傷と診断すべき少数の事例があるとする医学的所見もあることに照らせば、総合的な判断により高次脳機能障害を認定することが十分に可能な本件においては、現在の医療検査技術のもとで脳の器質的損傷を示す異常所見が見当たらないからといって、本件事故後の症状が脳の器質的損傷によることを否定することは相当ではない」

高次脳機能障害と離院

交通事故で身体的な被害が少ない場合でも頭部の打撲などで意識を失う状態が継続するような場合に、高次脳機能障害になる可能性があります。

このような場合に意識を回復した患者さんが、認知障害や精神障害等から自己の判断で勝手に病院から出て行ってしまうことがあるそうです。

病院側に高次脳機能障害についての知識が無いと勝手な患者さんと言うことで処理されてしまってきちんとした治療を受けられずにそのまま社会に戻ってしまうことになりますが、社会生活が十分に営むことができずに職を失って生活に困窮することもあります。

意識回復後に勝手に離院したような場合には、注意が必要と思われます。

交通事故に遭って入院し記憶力が低下し性格も怒こりやすく

父が昨年、交通事故に遭って入院し、今年退院しましたが、前よりも記憶力が低下し性格も怒こりやすくなりましたが後遺症ではないか?

高次脳機能障害になられている可能性があります。

高次脳機能障害とは、交通事故等によって頭部を打撲し、脳の一部を損傷が発生することによって、脳の機能の一部である記憶、注意、情緒、言語等の認知機能が低下する症状です。

記憶力低下や、段取り良く仕事ができない、怒りっぽくなった等症状も軽いものから重篤なものまで幅広い症状がありえます。

病院で見過ごされることもありますので、専門の病院に一度診察を受けてみてはどうでしょうか。
なお脳卒中等が原因で高次脳機能障害になることもあります。

子供の高次脳機能障害

交通事故等で頭部を強打する等によって脳の一部に障害が生じる事があり、記憶障害や感情変化などの変化を生じる事があります。
今まで出来ていたことができなくなったり人が変わったように怒りやすくなったりという形で現れることがあります。
子供の場合も同じことが起こりますが、脳の可塑性により成人よりも回復が早いことが多く適切なリハビリにより早期に休学していた学校に復学することができるようになることも多いそうです。

名古屋に高次脳機能障害の方の作業所

名古屋に高次脳機能障害の方の作業所ができました。

中日新聞報道(平成26年10月5日)によりますと名古屋に高次脳機能障害の方の作業所「チャレンジハウスみらい愛知」ができました。

高次脳機能障害の方は、場合によって感情の抑制がきかなかったり、「こだわり」が強すぎて授産所などでもいまくいかないケースもあるようです。
チャレンジハウスでは、生活に必要な買い物や料理などの訓練も取り入れて障害のある若者が一人で生活できるようになることを目標として設立されたようです。

高次脳機能障害のリハビリ

高次脳機能障害の話を名古屋市総合リハビリテーションセンターの先生からお聞きする機会がありました。

高次脳機能障害は、見えない障害であり周りの方々の理解が必要である一方、本人さんが障害を意識しておられないことも多いそうです。
そこを本人さんに理解していただくことも社会復帰のためには重要なポイントのようです。

なお高次脳機能障害は、脳の神経の損傷で破損した部分の機能が失われますが、損傷が拡大することはないので病気と違って症状がリハビリで改善することがあっても症状が悪化することはないようです。
また高次脳機能障害は、障害発生から2,3年間はリハビリの効果が大きく期待できるそうです。
また機能障害の部分は、代替手段によってカバーする方法等もあるので周りの理解協力があれば社会復帰は十分可能であるとのことでした。

『NPO法人脳外傷友の会みずほ』に伺ってきました。

先日、私(戸田弁護士)と田中弁護士は、名古屋市中区にある『NPO法人脳外傷友の会みずほ』の事務所に伺ってきました。

同法人は、交通事故や脳血管障害などによる後遺症『高次脳機能障害』を負ってしまった当事者や家族が励まし合い、情報を交換しあってより良い進路を探しながら社会復帰を目指すことを目的に結成されました。

後遺症への不安、家族としての対応の仕方、情報が欲しい、仲間との交流が持ちたいとの要望があるときにご相談くださいとのことです。

住所は、名古屋市中区平和2-3-10電話052-332-7517です。ご相談ある方は一度連絡してみてください。


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