交通事故で「脳脊髄液減少症」頭痛、めまい、聴覚障害、頸部痛

この記事を書いたのは:旭合同法律事務所(名古屋)

交通事故の分野では以前から、「交通事故で脳脊髄液減少症になった。そのため長期の頭痛、めまい、聴覚障害、頸部痛が継続している」との主張がありましたが、裁判では「本件交通事故によって脳脊髄液減少症になったと認められない」としてなかなか患者側が勝訴できない状況が続いていました。

そのような状況の中で2011年に中間報告で画像部門の診断基準案が発表されました。

これによれば『外傷を契機に脳脊髄液の漏れが発症するのは、決して稀ではない』とされています。

この中間報告が発表された後に出された大阪高裁の判決で、患者側敗訴の一審を取り消して脳脊髄液減少症患者側の主張を認める判決が出されました。

この判決は、中間報告にも言及しており、中間報告が出されたことの影響を強く受けていることが推測されます。

そういう意味で中間報告は、今後の交通事故裁判において一定の評価を与えられるものですが、長くこの病気に取り組んでこられた関係者によれば、「この中間報告で対象とされるのは全体の一部分であって大部分の患者が対象から外れるのではないか」と述べられています。

したがって一歩前進ではあるようですが、完全なる救済にはほど遠いようです。一刻も早い完全解決が期待されます。

脳脊髄液減少症の基準

脳脊髄液減少症の診断基準には国際頭痛学会、日本脳神経外傷学会、脳脊髄液減少症研究会、国の研究班による中間報告があります。
なお国の研究班による議論は続いています。

毎日新聞に2013年の日本脳神経外科学会の内容が公表されていました。
ある大学の教授が自身の患者57人を基準に該当するかどうか調べたところ、①国際頭痛学会2%、②日本脳神経外傷学会10%、③脳脊髄液減少症研究会52%、④国の研究班による中間報告30%であったようです。

したがって裁判になった際に裁判所が脳脊髄液減少症研究会の基準で判断してくれれば患者にとっては有利ということになりそうです。

しかし最近の裁判で脳脊髄液減少症が認められたケースを見てみると日本脳神経外傷学会の基準を重視していると思われるものと国の研究班による中間報告を重視していると思われる判例があります。

またブラッドパッチ(硬膜外自家血注入療法)による症状の改善という事実を重視している傾向もあるように思われます。

したがって提訴するケースでは今のところ上記の点を検討することになるのではないでしょうか。

なお自賠責保険の後遺症認定で脳脊髄液減少症が認めらなかったために、平成20年に財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構に異議の申し出をした例では、日本脳神経外傷学会の基準で判断されていましたので後遺症認定の場面でも、この基準が重視されているようです。

ブラッドパッチ(硬膜外自家血注入療法)の保険適用

2013年4月末に、厚生労働省は脳脊髄液減少症の治療に有効とされているブラッドパッチ療法の研究継続を決めたそうです。

これまでは、脳脊髄液減少症の中の漏出症の診断基準の研究が中心でしたが、今後は、漏出症以外の周辺病理についても研究される見通しだそうです。

昔は、ブラッドパッチ療法は15万円以上の患者の自己負担が発生していましたが、『先進医療』と認められたことで、入院費に保険が適用されることになり現在は自己負担額は10万円程度になっています。

脳脊髄液減少症の有効な治療方法の一つとされているブラッドパッチ(硬膜外自家血注入療法)の保険適用に関して厚生労働相の諮問機関が承認し、2016年4月から適用される予定です。

学校事故や交通事故などで脳脊髄液減少症にかかるケースがあると言われていますが医療現場でも認知がなかなか進んでいません。

いままでブラッドパッチは『先進医療』に指定されていましたが、全額自己負担すると数十万円に上るなど多額の費用がかかるようです。

今後は保険適用により治療件数が増えることが予想され、それによって脳脊髄液減少症の研究が進めば不明であった点も解明されていくことと思われます。

脳脊髄液減少症の症状

脳脊髄液漏出症については、症状についてはさまざまな症状がありますので、その症状がでる根拠について医学上の根拠を裁判官に説明する必要があります。

頭痛

頭痛の原因としては脳脊髄液の減少によって浮力効果が無くなり、起立すると脳が重力で下がり、髄膜が刺激されたり、疼痛感受性血管が牽引されるとされているようですが、血管壁の伸展で頭痛が起こるとの原因もあるといわれているようです。

参考 丸善出版の「むち打ち損傷 ハンドブック 第2版」

視覚障害

物がかすんで見えたり、チカチカしてみえたりする原因としては脳が下垂することで視神経が引っ張られたり、ゆがんだりするためにおこるとされているようです。

参考 日本評論社の「画像でわかる 脳脊髄液漏出症」

脳脊髄液漏出症の検査

頭部MRI

脳脊髄液漏出症については、症状についてはさまざまな症状があり、症状から病名を判断することは困難なようですが、特定の検査をすることによって漏出を確認することができるようです。

この方法については医師によって重視する検査が異なっており、それが原因で診断が異なることもあるようです。

厚労省の中間研究班の中間発表は、頭部MRIの画像診断をまず重視するようです。

脊髄MRI

脊髄では、漏れた脳脊髄液を補うように硬膜外腔の静脈が拡張する画像が多くのケースで見られるようです。

また脊髄硬膜外腔に漏れた脊髄液が溜まって画像に写るようです。

参考 日本評論社の「画像でわかる脳脊髄液漏出症」

脳脊髄液漏出症の認定要件(起立性頭痛の有無)

病院で脳脊髄液漏出症と診断されても、裁判で脳脊髄液漏出症と認められるとは限りません。

裁判所で認められるためには裁判官の認める認定基準をクリアしなければなりません。

裁判で原告が脳脊髄液減少症かどうかが争われた事件で被告側が、

①原告には起立性頭痛がない
②原告の症状はブラッドパッチ(硬膜外自家血注入療法)で改善が見れない
から減少症ではないと争った事件で、平成25年4月16日に和歌山地方裁判所が出した判決で裁判官は①②は必ずしも必要ではないと判示しました。

これは下級審ですので高裁・最高裁で維持されるかどうかはこれからのことですが、このような判例が出たことは原告側には心強いといえるでしょう。

脳脊髄液減少症と労災障害認定

病院で脳脊髄液減少症の診断を受けて自賠責保険に後遺症認定を申請しても、なかなか後遺症が認定してもらえません。

だいたい「画像上脳脊髄液の漏出が確認できない」という判断が多いように思います。

一方、労災の後遺症認定では脳脊髄液減少症が認められている例があるようです。

したがって通勤途中で交通事故にあった場合に、自賠責は非該当、労災は12級という不思議なことがおこります。

自賠責の認定に対して異議申し立てしても変わらない経験があります。

一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理の申請をしているものがあります。

脳脊髄液漏出症と自賠責保険・共済紛争処理機構

自賠責保険・共済紛争処理機構に対して調停申請していた結果が送られてきました。

脳脊髄液漏出症の方の非該当事案でしたが、自賠責保険・共済紛争処理機構でも結論は非該当でした。

決定書には「現時点では外傷によって脳脊髄液漏出症の発症する基準は明確になっておらず、また、その頻度は極めて低くまれとされている」ということが書かれており、非常に厳しい意見を持った審査委員が多いことが読み取れました。

今後ますます同じような案件が増えると思われますが、自賠責で認定されることは極めて稀ではないかと思われます。

脳脊髄液減少症患者・家族支援協会

脳脊髄液減少症患者・家族支援協会の事務局の中井さんにお会いしました。

脳脊髄液減少症患者・家族支援協会は積極的に政府にも働きかけをされており患者の地位向上のための努力をされておられるとのことです。

現在は和歌山事務所と首都圏事務所(横浜 電話は045-716-4646)をお持ちのようで特定NPO法人の仮認定も受けておられるとのことでした。

裁判情報等も多くお持ちのようで今後は司法の場でも情報を交換共有していきたいとのことでした。

脳脊髄液減少症から回復したピアニスト

2011年の年末の読売新聞の顔の欄に脳脊髄液減少症から回復したピアニストとして松下さんという方が掲載されていました。

1995年に車が大破する交通事故に遭いながら無事に助かるも、2004年になって急に立ち上がれなくなったとのことです。

病院で脳脊髄液減少症と診断され、その後、頭痛・耳鳴り・文字が読めない・鉛筆も握れないと言う状況が8年間いたそうです。

医師から「体は治ろうとしている」と言われ、この言葉を信じ続け、2012年に硬膜の外に酸素を入れる治療法を試すと頭痛が消え、また演奏ができるようになりました。

今も体調が前と同じ状況に戻ったわけではないとのことですが、「どんなにつらくても、必ず希望は見えてきます」と語られているそうです。

子供と脳脊髄液減少症

脳脊髄液減少症は、外部からの強い衝撃で髄膜の弱い部分から髄液が漏れだして、頭痛やめまい、だるさと言った様々な症状を引き起こす病気です。

子供の場合、学校でのちょっとした外傷が原因となることがあるようです。

子供同士の衝突、階段からの転落、遊技中のボールが頭部にあたるなどです。

これらの場合、病院の診察でも、頸椎捻挫、心身症、片頭痛などの診断で終わったり、最悪の場合は「学校に行きたくないだけじゃないか」と怠けていると誤解を受けたりすることもあるようです。

また不登校の原因となることもあるようです。事故から長期間異常が続く場合は、この病気も検査してみる必要があるかもしれません。

スポーツ外傷後に脳脊髄液減少症

2013年1月29日の中日新聞に脳脊髄液減少症の記事が掲載されていました。

主にスポーツ外傷後に子供に頭痛やめまいが現れる場合には、医療機関を受診させるように全国の教育委員会に通知したという内容の記事でした。

これにより脳脊髄液減少症の早期発見・早期治療が行われることが期待されます。

同記事によれば受傷直後なら、水分を補給して2週間程度安静にすれば治ることもあると述べられていました。

また受傷後1年以内にブラッドパッチ(硬膜外自家血注入療法)を受けた子供の改善率は96%と書かれていました。

ブラッドパッチは、「先進医療」と認められて医療機関によっては費用の一部が保険適用されますが、それでも入院費用も含めて15万円程度の自己負担がかかります。

また保険適用受けられるのは画像で髄液漏れと確認できた方のみで、厚生労働省の研究班の調査では起立性頭痛のある人でも2割以下しか対象にならなかったそうです。

脳脊髄液減少症に取り組んでいる名古屋の弁護士と勉強会

2015年の秋から脳脊髄液減少症に取り組んでいる名古屋の弁護士さんと少人数の勉強会を始めることにしました。

情報が少ない分野ですので、他の弁護士と情報交換をすることにより依頼者の方に有利な情報を得ることもできると思います。

まだまだ難しい分野ですが、少しづつでも改善していければと考えています。

医師を対象にした脳脊髄液減少症の研修会が愛知県で開催

医師を対象にした脳脊髄液減少症の研修会が愛知県で開催されました

脳脊髄液減少症の治療として2016年4月からブラッドパッチ(硬膜外自家血注入療法)が保険適用になったことから脳脊髄液減少症の研修会が全国で初めて愛知県で開催されました。

中京病院の池田医師が講師となって中京病院で開催されたそうです。

愛知県内では脳脊髄液減少症の検査ができる病院は45カ所あるそうですが、治療ができる病院は7カ所しかないとのことです。

このような研修会の開催によって治療できる病院が増加していけば患者の方々も助かると思われます。研修会の全国的な広がりが期待されます。

脳脊髄液減少症の勉強会に参加

脳脊髄液減少症の勉強会に参加してきます。

2016年10月、東京でNPO法人が主催する脳脊髄液減少症の勉強会が二日間にわたって開催されるとの連絡がありましたので私も参加する予定にしております。

脳脊髄液減少症に積極的に取り組まれている医師の講演があるとのことですのでしっかりと拝聴してきたいと思っています。

脳脊髄液減少症も保険適用がされるようになりましたが、病院で脳脊髄液減少症と診断されても自賠責保険の後遺症の認定や訴訟で脳脊髄液減少症と認定されるとは限りません。

医療の場面と損害賠償の場面では一致しないのが現在の状況です。

<名古屋高裁>脳脊髄液減少症と認める 被害者が逆転勝訴

追突事故の被害者が脳脊髄液減少症(髄液漏れ)になったかが争われた訴訟で、名古屋高裁は、1審・名古屋地裁判決を変更して髄液漏れとした診断の妥当性を認め、約130万円だった賠償額を約2350万円増額する判決を言い渡した(名古屋高裁平成29年6月1日判決)。

1審は同種訴訟で多くの加害者側が頼ってきた医師の意見書を根拠に髄液漏れを否定したが、2審は研究が進んだ現状と治療した専門医らの見解を重視した。

名古屋高裁は、加害者側の医師の意見書について「1970年代の古い文献などに基づいた意見に強い説得力はない」などと指摘。「3病院の臨床診断は十分に信頼性がある」とした。また、3病院が撮影したMRI(磁気共鳴画像化装置)などの画像には、髄液漏れの診断基準を満たしていない部分もあったが、研究が進展中であることを踏まえて「(画像の証拠価値を)全て否定する方向で診断基準を用いるのは相当でない」と判断した。

@毎日新聞


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旭合同法律事務所(名古屋)