デジタルツインとは?3D都市モデル・データの知的財産と情報セキュリティ、経済安全保障規制を弁護士が解説

この記事を書いたのは:川村将輝

デジタルツインとは、現実世界の都市・インフラ・設備等の物理的実体を、センサーやカメラ、衛星画像等から取得したデータに基づいてコンピュータ上に再現し、リアルタイムまたは準リアルタイムでデータを同期させることで、シミュレーション・予測・意思決定に活用する技術です。

国土交通省は2020年度から「Project PLATEAU」を通じて全国の3D都市モデルのオープンデータ化を進めており、スマートシティ、防災、インフラ管理など幅広い分野での活用が期待されています。

もっとも、デジタルツインを支えるデータは、著作権法・不正競争防止法による知的財産保護、個人情報保護法による人物特定リスクへの対応、そして経済安全保障推進法による基幹インフラ規制という複数の法分野が交錯する領域です。とりわけ2026年7月17日に公布された改正個人情報保護法は、顔特徴データ等の生体情報の取扱いやAI開発における個人情報の利用に関する規律を新設しており、デジタルツインに関わる事業者にとって重要な法改正となっています。

本記事では、企業法務を専門とする弁護士の立場から、デジタルツインを構成するデータの知的財産保護、個人情報保護法への対応、経済安全保障規制、情報セキュリティ、そしてリーガルリスクマネジメントまで、実務的な観点から整理します。

本記事のポイント

  • デジタルツインの技術的な仕組みとメタバースとの違い
  • Project PLATEAUにみる官民でのデータ整備の動き
  • デジタルツインを支えるデータの類型と、静的データ・動的データによる法的分析の違い
  • LLM学習データとしての取扱いとプログラム著作権保護における権利主体の分界点
  • 3D都市モデル・点群データの知的財産保護とデータライセンスの実務
  • 個人情報保護法への対応と令和8年改正がもたらす影響
  • 経済安全保障推進法の基幹インフラ制度とデジタルツイン導入時の届出の要否
  • 情報セキュリティとサイバーフィジカルリスクへの対応
  • デジタルツイン活用におけるリーガルリスクマネジメント

デジタルツインとは何か

技術的な仕組みと活用分野(都市・インフラ・防災)

デジタルツインとは、衛星画像、航空写真、地上レーザー計測(LiDAR)、IoTセンサー等から取得したデータを用いて、現実世界の都市・建物・インフラ設備等の物理的実体をコンピュータ上に再現し、現実世界の状態変化と同期させることで、シミュレーションや将来予測、意思決定支援に活用する技術です。

都市計画やまちづくりのシミュレーション、防災(浸水・土砂災害予測)、インフラ設備の維持管理、交通流のシミュレーションなど、活用分野は多岐にわたります。

国土交通省は2020年度から「Project PLATEAU」を通じて全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化を進めており、地方公共団体や民間企業による活用が広がっています。

メタバースとの違い

デジタルツインとしばしば並べて語られる概念に「メタバース」があります。

両者は本質的に異なる技術です。メタバースは、必ずしも現実世界に対応しない仮想空間そのものであり、アバターを介したユーザー間の交流やコンテンツ消費を主目的とするプラットフォームです。これに対しデジタルツインは、現実世界の物理的実体を忠実に再現し、実世界のデータをリアルタイムまたは準リアルタイムで反映させることで、シミュレーションや予測、実世界の意思決定に役立てる点に主眼があります。

この違いは法的な論点の重心にも表れます。メタバースでは、仮想空間内のアバターやアイテム、NFT等のデジタルコンテンツをめぐる知的財産権や利用規約が主戦場となるのに対し、デジタルツインでは、実世界データの取得・利用・保護(測量法、個人情報保護法、著作権法、経済安全保障関連法制)が主たる法的論点となります。

Project PLATEAUにみる官民でのデータ整備の動き

Project PLATEAUが提供する3D都市モデルのデータは、CC BY4.0等のオープンライセンスのもと、商用利用を含めて広く提供されています

国土交通省PLATEAUウェブサイト

同サイトのポリシーによれば、国土交通省が公開するコンテンツの著作権は原則として国土交通省に帰属する一方、G空間情報センター経由で提供される3D都市モデルの著作権は各地方公共団体に帰属するとされています。利用に際しては「公共データ利用規約(第1.0版)」(PDL1.0)に準拠する必要があり、出典の記載や、加工したデータを国土交通省が作成したものであるかのように見せてはならない旨が定められています。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
PLATEAUのようなオープンデータを組み込んだサービスを設計する際は、利用規約上の出典表示義務や改変時の表示義務を軽視しがちですが、これらの義務違反は利用規約違反(債務不履行)を構成し得ます。サービスの利用規約や成果物のクレジット表示に、データソースごとの遵守事項を反映したチェックリストを整備しておくことをお勧めします。

デジタルツインを支えるデータの類型と法的分析

データの種別(観測データ・点群データ・センサーデータ・シミュレーションモデル)

デジタルツインを構成するデータは、大きく分けて、①衛星画像・航空写真等の観測データ、②LiDAR等により取得される点群データ、③IoTセンサーやカメラから継続的に取得されるセンサーデータ、④これらを統合して構築される3Dモデルやシミュレーションモデルという4つの類型に整理できます。

それぞれのレイヤーごとのデータ類型は、取得方法、更新頻度、含まれる情報の性質が異なるため、適用される法規制や知的財産保護のあり方も類型ごとに異なる点に留意が必要です。

静的データと動的データにおける法的分析の違い

特に重要な区別が、静的データと動的データの違いです。

衛星画像や点群データのような静的データ(ある一時点のスナップショット)は、継続的な人物追跡には適さないため、個人情報保護法上のリスクは相対的に限定的である一方、重要施設の外観・配置等が写り込むことによる安全保障上の懸念や、著作物としての保護の可否(後述)が主な論点となります。

これに対し、監視カメラ映像やリアルタイムのセンサーデータのような動的データは、特定の個人の行動を継続的に把握することを可能にするため、個人情報保護法上の「個人情報」該当性が認められやすく、位置情報の継続的な取得によるプロファイリングへの懸念も強まります。今般の個人情報保護法改正における生体データの該当性も問題となります。

動的データを用いたデジタルツインを設計する事業者は、静的データを前提とした知財保護の発想だけでなく、動的データに特有のプライバシー・個人情報保護法上の論点を独立して検討する必要があります。

LLM学習データとしての取扱いとプログラム著作権保護における権利主体の分界点

デジタルツインを構成する3Dモデル生成・シミュレーションのソースコードそれ自体は、著作権法10条1項9号に基づき「プログラムの著作物」として保護され得ます。この場合の著作者は、通常、システムを開発した事業者(職務著作の要件を満たす場合は使用者たる法人)となります。

これに対し、観測データや3Dモデルそのものを大規模言語モデル(LLM)や画像生成AIの学習データとして利用する場合には、著作権法30条の4が適用され得ます。同条は、著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合(情報解析目的の利用等)には、原則として著作権者の許諾なく著作物を利用できると定めていますが、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」はこの限りでないとされています。

したがって、①ソフトウェア・プログラムの著作権(開発事業者に帰属)、②学習用データセットを構成するデータ自体の権利(データ提供元・整備主体に帰属し、契約や限定提供データとしての保護が及び得る)、③生成AIが出力する派生的な3Dモデルやシミュレーション結果の権利(人間の創作的関与の程度により著作物性の有無が左右される)という3つの権利主体を区別して整理することが、デジタルツイン関連のライセンス契約や業務委託契約を設計するうえで不可欠です。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
学習データの提供元との契約においては、「情報解析目的での利用に限定する」旨の確認だけでなく、著作権法30条の4の「著作権者の利益を不当に害する」場合に該当するリスク(市場代替性の高いデータベース等)がないかを個別に検討することをお勧めします。また、AIが生成した3Dモデルやシミュレーション結果を自社の成果物として対外的に提供する場合には、その著作物性の有無や、元データ提供者との権利関係を契約書上で明確にしておくことが紛争予防の観点から重要です。

デジタルツインを構成するデータの知的財産保護

3D都市モデル・点群データの著作物性と限界

機械的に取得された衛星画像や点群データそのものは、通常、創作性を欠くため著作物として保護されない場合が多いといえます。もっとも、複数のデータソースを選択・加工・体系化して構築された3D都市モデルのデータベースについては、著作権法12条の2のデータベースの著作物として保護される余地があるほか、特許法による保護になじまない場合でも、不正競争防止法上の「限定提供データ」(同法2条7項)として保護され得ます。

限定提供データとしての保護を受けるためには、相当量のデータが蓄積されていること、ID・パスワード等による電磁的管理がなされていることが重要な要件となります。

データのライセンス(公共データ利用規約・CC BY4.0)と二次利用時の留意点

前述のとおり、PLATEAUのデータはCC BY4.0や公共データ利用規約(PDL1.0)のもとで提供されており、出典表示等の一定の条件のもとで商用利用が可能です。もっとも、国土交通省のサイトポリシーでは「国土交通省は利用者が当ホームページの情報を用いて行う一切の行為について何ら責任を負うものではありません」という免責事項が明記されており、データの正確性について公的機関が保証するものではない点に留意が必要です。

複数のデータソース(公共データ、自社取得データ、第三者提供データ)を統合してデジタルツインサービスを構築する場合には、それぞれのデータソースのライセンス条件を個別に確認し、二次利用・再配布の可否、商用利用の可否、表示義務の内容を一覧化して管理することが実務上重要です。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
複数のオープンデータ・商用データを組み合わせたデジタルツインサービスでは、データソースごとにライセンス条件が異なるため、どのデータがどの条件で組み込まれているかを追跡できる「データ系譜管理台帳」を整備しておくことを強くお勧めします。ライセンス条件の見落としは、サービスの根幹を揺るがす知財トラブルに直結します。

デジタルツインと個人情報保護法

人物・車両等の識別可能性とマスキング処理

3D都市モデルは、衛星画像や航空写真、地上カメラの撮影データをもとに構築されるため、撮影対象に人物の顔や車両のナンバープレートが写り込む可能性があります。これらが特定の個人を識別できる状態のまま提供・公開された場合、個人情報保護法上の「個人情報」に該当し得るため、多くのデジタルツイン事業では、人物・車両等が特定できないよう画像処理段階でマスキング(ぼかし処理)を行うことが実務上の対応となっています。

マスキング処理の要否・程度は、データの解像度、公開範囲(オープンデータとして一般公開するか、限定提供にとどめるか)によって異なるため、個々のデータ提供スキームに応じた個別の検討が必要です。

令和8年個人情報保護法改正と生体データ・AI学習データの取扱い

2026年7月10日に成立し、同月17日に公布された改正個人情報保護法は、デジタルツイン・AI関連事業者にとって重要な改正を含んでいます。

個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法」

第一に、顔特徴データ等の生体データについて、事業者の名称・利用目的・元となった身体的特徴の内容等の周知義務化、違法行為の有無を問わない利用停止請求の許容、オプトアウト制度に基づく第三者提供の禁止など、規律が強化されました。デジタルツインの構築過程でカメラ画像から顔特徴データを抽出・利用する場合には、この規律強化を踏まえた対応が必要です。

第二に、AI開発を含む「統計情報等の作成」を目的とする場合の特例が新設され、統計情報等の作成にのみ利用されることを担保する一定の措置(公表、書面による合意、目的外利用・第三者提供の禁止)を講じることを条件に、本人同意を得ることなく個人データの第三者提供や、公開されている要配慮個人情報を取得することが可能とされました。他方で、この特例を濫用し、実際には統計化を行わずに個人データを販売・利用した場合には課徴金納付命令の対象となる点にも注意が必要です。

改正法の施行日は公布の日から起算して2年を超えない範囲内で政令により定められる予定であり、今後の政令・ガイドラインの整備動向を注視する必要があります。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
統計特例は、AI学習データの収集を大きく後押しする改正ですが、「統計情報等の作成にのみ利用する」という担保措置の履行を怠ると課徴金という重いペナルティにつながります。
生体データを扱う場合や、Webスクレイピングにより収集した公開データを学習データとして利用する場合には、施行前の現時点から、利用目的の限定、提供先との書面合意、社内でのモニタリング体制の整備を先行して検討しておくことをお勧めします。

経済安全保障推進法とインフラ分野のデジタルツイン導入

基幹インフラ制度(特定社会基盤事業者・特定重要設備)の概要

経済安全保障推進法は、電気、ガス、水道、鉄道、電気通信、放送、金融など14業種(2026年6月には医療分野が新たに追加されました)を対象に、国が指定する特定社会基盤事業者に対し、重要設備の導入等に際して事前の届出・審査を求める制度を設けています。

内閣府ウェブサイト

これは、基幹インフラの重要設備が外部からの妨害行為の手段として使用されることを防止することを目的とした制度です。

デジタルツイン・監視制御システム導入時の事前届出の要否

特定社会基盤事業者に指定された電力、鉄道、上下水道等のインフラ事業者が、インフラの監視・制御・運用計画の最適化を目的としたデジタルツインシステムを導入する場合、当該システムが「特定重要設備」に該当するかどうかを個別に検討する必要があります。

特に、リアルタイムのセンサーデータと連携し、インフラの制御系統に直接影響を及ぼし得るデジタルツインシステムについては、単なる可視化・分析ツールにとどまらず、制度上の重要設備として事前届出の対象となる可能性が否定できません。該当性の判断は各所管省庁の相談窓口での確認が推奨されており、導入前の照会を怠ると、行政指導や導入計画の是正命令といった対応を求められるリスクがあります。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
特定社会基盤事業者に該当する企業がデジタルツインシステムを導入・更新する際は、IT部門やDX推進部門だけで意思決定を完結させず、法務部門が早期に関与し、所管省庁への事前相談の要否を検討するプロセスを社内規程に組み込むことをお勧めします。医療分野が2026年6月に対象業種に追加されたように、対象範囲は今後も拡大し得るため、自社が特定社会基盤事業者に該当するかどうかを定期的に確認することも重要です。

デジタルツインの情報セキュリティとサイバーフィジカルリスク

OT/ICSセキュリティとサイバーセキュリティ経営ガイドライン

インフラの監視制御システムと連携するデジタルツインは、サイバー攻撃が現実世界の物理的な被害に直結する「サイバーフィジカルシステム」としての性質を持ちます。工場やインフラの制御システム(OT/ICS)は、一般的な情報系システム(IT)とは異なるセキュリティ対策が必要とされており、経済産業省・IPAの「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」が示す経営者主導の対策推進、サプライチェーン全体でのセキュリティ確保、平時・緊急時のコミュニケーション体制構築という考え方は、デジタルツイン導入企業にも同様に当てはまります。

データ統合・クラウド利用における第三者委託管理

デジタルツインの構築・運用にあたっては、クラウドサービスやデータ分析基盤を提供する外部ベンダーへの委託が一般的です。個人情報保護法上、委託先に対する監督義務(同法25条)が課されているほか、前述の限定提供データや生体データを委託先に取り扱わせる場合には、委託契約上、目的外利用の禁止、再委託の制限、インシデント発生時の通知義務等を具体的に定める必要があります。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
デジタルツインのように多数のデータソースと多層的な委託関係が絡む事業では、委託先の先の再委託先(いわゆる孫請け)まで含めたデータの流れを可視化しておくことが、インシデント発生時の原因究明と責任追及を迅速に行ううえで極めて重要です。委託契約のひな型に、再委託先リストの事前開示・承認プロセスを組み込むことをお勧めします。

デジタルツイン活用におけるリーガルリスクマネジメント

シミュレーション結果の誤りに基づく意思決定と民事責任

デジタルツインを用いた防災シミュレーションやインフラの劣化予測等の結果に基づいて行政機関や企業が意思決定を行った後、実際の被害がシミュレーションの想定と異なり損害が生じた場合、システム提供事業者が債務不履行責任や不法行為責任を問われる可能性があります。もっとも、シミュレーションはあくまで一定の前提条件のもとでの予測であり、絶対的な正確性を保証するものではないため、契約上、シミュレーション結果の性質(予測情報である旨)、前提条件の開示、免責事由、責任制限条項を明確に定めておくことが重要です。

データ提供・共同利用契約における責任分配

地方公共団体や複数企業が共同でデジタルツインを構築・運用する場合には、各当事者が提供するデータの品質保証の範囲、データ更新の頻度・責任者、システム障害時の責任分配、そして本記事で解説した知的財産・個人情報・経済安全保障の各論点への対応窓口を、共同事業契約や業務委託契約の中で明確に定めておくことが望ましいといえます。

💡 弁護士からのワンポイントアドバイス
デジタルツイン関連の契約書は、通常のシステム開発委託契約のひな型をそのまま流用すると、知的財産・個人情報・経済安全保障という複数の法分野に特有のリスクへの手当てが漏れがちです。契約審査の段階で、法務・知財・情報セキュリティ・DX推進の各部門が横断的にレビューするチェックリストを整備し、案件ごとに漏れなく確認する体制を構築することをお勧めします。

まとめ

本記事では、デジタルツインをめぐる法規制について、メタバースとの違いを含む技術的な位置づけ、データの類型と静的・動的データによる法的分析の違い、LLM学習データとしての取扱いとプログラム著作権保護における権利主体の分界点、3D都市モデル・点群データの知的財産保護、令和8年に成立した改正個人情報保護法がもたらす生体データ・AI学習データへの影響、経済安全保障推進法の基幹インフラ制度、情報セキュリティ、そしてリーガルリスクマネジメントの視点まで、実務的な観点から整理しました。

デジタルツインは、都市・インフラのDXを支える基盤技術として今後も普及が見込まれる一方、これを支えるデータをめぐる法制度は、著作権法・個人情報保護法といった伝統的な法分野と、経済安全保障推進法という新しい法制度が複雑に交錯する発展途上の領域です。

企業としては、技術部門・知財部門・法務部門・情報セキュリティ部門が連携した横断的な体制を構築し、令和8年個人情報保護法改正をはじめとする制度の具体化を継続的にモニタリングしながら、事業機会の獲得とリスク管理の両立を図っていくことが求められます。


この記事を書いたのは:
川村将輝