愛知県迷惑防止条例
この記事を書いたのは:戸田裕三
みなさんは、愛知県迷惑防止条例というのを聞いたことがありますか。
公衆に著しく迷惑をかける行為を取り締まる条例ですが、その1つに「公共の場所又は公共の乗物において、故なく、人を著しくしゅうさせ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない」として、「人の身体に、直接又は衣類その他の身に付ける物の上から触れること」をその一つとして掲げています。
これは要は「痴漢行為」ということになります。
数年前に私も愛知県迷惑防止条例違反で逮捕された方を弁護したことがありました。
その方は一貫して痴漢行為を否定しておられましたが、検察官はその方が嘘をついているとして執拗に痴漢行為を自白するように追及していました。
私も、その方が嘘の自白をしないように面会時に勇気づけをしていました。
一方で被害者の行動が痴漢被害にあった者の行動としては不自然であり、安易に信用すべきでない旨の意見書を検察官に提出しました。
その時に参考に引用したのが、2009年4月14日に出された最高裁判決です。
この事件で最高裁は、痴漢事件については、客観的証拠が得られにくく、被害者供述が唯一の証拠となることが多いので、その信用性判断には特に慎重さが求められるという指針を示しました。
そして、結論として有罪判決を破棄して無罪判決を最高裁が自ら出したという事件でした。
それまでは刑事裁判官の判断は「被害者が嘘をつく理由がない」として被害者の供述の信用性を緻密に検討しない傾向がありましたが、最高裁がその傾向に注意を促したものであったといえます。
私が担当した上記事件は、勾留満期日に依頼者の方は「嫌疑不十分」として釈放されました。
検察官が証拠が不十分で起訴ができないと判断したのです。
取調中の検察官の強気発言とは矛盾する判断で最初聞いた時にびっくりしましたが、最高裁の判例の威力を見せつけられた思いがしました。