不動産占有屋・養育費差し押さえなど強制執行について

この記事を書いたのは:旭合同法律事務所(名古屋)

「不動産執行妨害への対策」

Q 不動産執行の現場では、執行妨害をする「占有屋」という問題があると聞きましたが、どういうことですか。
A これは、不動産執行の現場に何の権利もないまま現場を占拠し、高額の「明渡料」等の金銭を要求するものです。
Q 一般の感覚では、「不法占拠をなぜ排除できないのか」と単純に思いますが、簡単に排除できないのでしょうか。
A 従前の法制度では、簡単に排除できない理由が少なくとも3点はあったと思います。
第一には、従前の法制度では、「占有屋」を排除するための法律要件が厳しかったのです。
第二には、「占有屋」は次々と人を入れ替えるため(暴力団が日本語の通じない外国人を利用して、次々と人を入れ替えるケース等もあります)、裁判所の不動産明渡の命令が出ても、裁判所の命令の相手方は「A」だけと私は「Bだ」「人が違う」と言い張り、その理由から明渡執行が不可能となることもあったのです。
第三には、不動産の抵当権設定後に形だけの短期賃借権(不動産を一定期間利用できる権利です)を設定し、「占有屋」が賃借権を盾に占有を拒むこともありました。
このような不動産執行実務の不備から「占有屋」が横行したり、「明渡料」が暴力団の資金源になったことも事実です。
Q 大変ですね。現在の法制度ではどうでしょうか。
A 法制度が改正されて、この点の対応も可能となっていますね。

まず、「占有屋」を排除するための民事執行法の要件を緩和しています。その結果、裁判所が比較的容易に排除の命令を出し易くなりました。

また、「占有屋」が次々に人を入れ替えて、相手方が誰か分からないときは、「相手方を特定しなくてもよい」としています。

更に、悪用されることが多かった「短期賃借権制度」を廃止しています。代替制度として、抵当権者の同意による賃借権制度を創設しています。なお、保護すべき賃借人には合理的な範囲の保護として六ヵ月間の明渡猶予制度もあります。

これらの法改正により「占有屋」等の執行妨害行為への対応が進んでいるようですよ。

「強制執行の実効性確保」

Q 長期間に渡る裁判を争い、やっと、裁判所の判決をもらって、「いざ強制執行」となったら、「事件解決」と思うのが一般の感覚です。テレビドラマではそうですね。
A 確かにそうですね。しかし、この強制執行が非常に困難となることは度々あります。

特に、強制執行の対象となる相手方の財産が不明である場合は大変困難です。

Q 現在の法制度では少しは対応できるのでしょうか。
A 従前では、物の引渡債務の強制執行は、「直接強制」(執行官が物に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法)しか出来ませんでした。
しかし、法改正により、「間接強制」(裁判所が一定期間内に履行しないときは、直ちに一定額の金銭を債権に支払うことを命じ、間接的に債務履行を促す方法)(例えば、期間内の履行命令に違反した場合には、1日当たり○○円支払えと命じます)も選択できるようになりました。
強制執行方法のメニューを増やし、強制執行の実効性を上げようということです。
Q 他にもありますか。
A 強制執行の対象となる債務者財産を把握するため「財産開示手続」を創設しています。財産開示手続の申立があった場合は、債務者は、財産開示の期日に出頭し、宣誓した上で、自己の財産状況について開示しなければなりません(非公開手続きです)。債務者が正当な理由なく出頭しなかったり、虚偽の陳述をした場合には罰則があります。なお、逆に、債権者が債務者の財産に関する情報を目的外に使用した場合にも罰則があります。これにより、債務者は、債権者に就労先や収入、財産状況を偽ることは出来ません。

もちろん、この制度にも限界はありますが、一定の効果はあるようですね。

Q 養育費の不払いについてはどうでしょうか。
A 養育費が滞納した場合には、滞納分の養育費のみならず、「将来分の養育」も含めて、将来の収入(給与などの継続的給付に係る債権)の差押が可能となります。差押の上限も、従前では、給与の「4分の1」しか差押出来ませんが、現在の法制度では「2分の1」まで差押が可能です。これにより法制度としては、養育費の履行確保が一歩進んだといえます。

この記事を書いたのは:
旭合同法律事務所(名古屋)