刑の一部執行猶予はどのような制度ですか?

この記事を書いたのは:旭合同法律事務所(名古屋)

Q1 刑の一部執行猶予の制度が始まっているようですが、どんな内容の制度ですか。
A 刑事事件の判決で、懲役または禁錮を宣告する際、実刑にする刑期と執行猶予にする刑期を言い渡す制度です。言い替えると、実刑と執行猶予をミックスさせたハーフです。
Q2 一部執行猶予の判決は、どのような表現になりますか。
A 例えば「被告人を懲役3年に処す。ただし、このうち1年は刑の執行を3年間猶予する。執行を猶予する期間中、被告人を保護観察に付す。」という主文が宣告されます。
Q3 一部執行猶予の判決が確定すると、実刑と執行猶予とどちらが先に実施されますか。
A Q2で答えた例で説明すると、まず、実刑期間の懲役2年が執行されます。実刑期間が終わると、残りの懲役1年は執行が猶予されて刑務所から出てきます。執行猶予の期間は3年で、その間は保護観察を受けます。
Q4 一部執行猶予の適用を受けるには、どんな要件が必要ですか。
A 被告人の経歴に関する要件と、今回言い渡される刑に関する要件に分かれますが、いずれの要件も満たしている必要があります。
(1) まず、経歴に関する要件は、次の3つのうちいずれか一つに当てはまらなけれないけません。
ア) 前に禁固以上の刑に処せられたことがない者
イ) 前に禁固以上の刑に処せられても、その刑の全部の執行を猶予された者
ウ) 前に禁固以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終えた日または執行の免除を得た日から5年以内に禁固以上の刑に処せられたことがない者
(2) 次に、今回言い渡される刑については、それが3年以下の懲役または禁錮であることが必要です。罰金には刑の一部猶予は適用されません。
(3) その上で、犯情の軽重、被告人の境遇その他の情状を考慮して、再犯を防ぐために必要で、かつ、相当であると認められる場合に、一部執行猶予の判決が言い渡されます。
Q5 一部執行猶予の制度が新設されたのは、どのような理由からですか。
A この制度は、受刑者の再犯を防ぐことがねらいで、平成28年6月1日からスタートしました。最高裁のまとめによると発足して最初の1年間で、1596人が一部執行猶予の判決を受けています。その9割以上が薬物事犯です。
Q6 一部執行猶予が受刑者の再犯防止に効果があるというのは、なぜですか。
A 再犯の防止には保護観察が有効であると言われています。しかし、禁固とか懲役の執行を受け終わって出所した人には、保護観察を付けることができません。そのため、出所後に再び罪を犯してしまう人が多い状態です。これに対し、一部執行猶予は判決で定められた実刑期間が過ぎると、残りの刑期は執行が猶予され、その猶予期間中は保護観察を付けて、再犯を防ぐためのプログラムが実施されます。これによって、従来よりも再犯防止に効果が期待できると考えられています。
Q7 一部執行猶予に付けられる保護観察は、どのように実施されるのですか。
A 保護観察を受ける人には、保護観察中に守らなければならない事項として、全員に共通の「一般遵守事項」と、保護観察を受ける人の問題別に設定される「特別遵守事項」があります。このうちの一般遵守事項は、健全な生活態度を保ち、毎月担当の保護司や保護観察官の面接を受け、就労状況や就学状況などを報告し、指導を受けることなどが設定されます。その一方で特別遵守事項の中には、専門的処遇プログラムの受講などが設定されます。このプログラムは、保護観察所で実施され、受講しないと執行猶予が取り消される場合があります。
Q8 保護観察所で実施される専門処遇プログラムには、どんな種類がありますか。
A 次の4種類が用意されています。(1) 性犯罪者処遇プログラム (2) 薬物再犯防止プログラム (3) 暴力防止プログラム (4) 飲酒運転防止プログラム
Q9 専門処遇プログラム中の「薬物再犯防止プログラム」は、どのように進められますか。
A 保護観察が始まると、最初は2週間か3週間に1回の割合で保護観察所に出頭し、ワークブックなどに基づいて保護観察官が実施する「コアプログラム」を受講します。その場合、受講する都度、尿または唾液を提出して簡易薬物検出検査を受け、陰性の検査結果が続くことを目標に、薬物と手を切る意志の強化が図られます。このコアプログラムは、おおむね3か月の間に全5回実施されて終了し、次に「ステップアッププログラム」へと進みます。
Q10 保護観察で実施される薬物再犯防止のステップアッププログラムは、どんな内容ですか。
A おおむね1か月に1回の割合で保護観察所に出頭して、保護観察官と1対1の個別処遇で進められます。この処遇は、原則として保護観察終了まで続けられます。処遇の内容は、コアプログラムで受講したことを定着させ、更に応用し実行させる「発展課程」が全12回続けられます。これが終わると、薬物依存からの回復に向けてのスキルを習得する「特修課程」へと進み、最終的には外部の専門機関や民間支援団体の見学とか、家族を含めた合同面接を行う「特別課程」に進みます。このステップアッププログラムでも、毎回の受講時に簡易薬物検出検査が実施されます。
Q11 刑の一部執行が猶予されるのは、どのくらいの期間ですか。
A 執行猶予の期間は、1年から5年の範囲で、判決によって言い渡されます。
Q12 被告人にとって、一部執行猶予のメリットは何ですか。
A 全部実刑に比べると、一部とはいえ刑務所から早く出てこれることがメリットです。しかし、執行猶予の期間中は保護観察が付けられるため、国の機関から完全な自由になるには更に保護観察が終わるまでの年数(1年から5年)がかかるというデメリットもあります。そのため、一部執行猶予の判決を受けた人の中には、厳格に実施される保護観察に音を上げて「こんなことなら、全部実刑の方がよかった。」と愚痴をこぼす者もおります。
Q13 一部執行猶予の期間が終わると、どんな効果がありますか。
A 執行猶予を取り消されないで無事に猶予期間が経過すると、既に服役している実刑期間を刑期とする懲役または禁錮に減軽されます。この場合は、実刑期間の執行が終わった日をもって、刑の執行を受け終えたものと扱われます。
Q14 一部執行猶予は、どんな場合に取り消されますか。
A (1)必要的取消。一部執行猶予の判決を受けた後に罪を犯して禁固以上の刑に処せられたり、判決前に犯した別の罪で禁固以上の刑に処せられ場合とか、判決前に他の罪で禁固以上の刑に処せられたことが判明したときは、必ず今回の執行猶予が取り消されます。(2)裁量的取消し。一部執行猶予の判決を受けた後に罪を犯して罰金に処せられた場合と、保護観察で設定された遵守事項を守らなかった場合は、裁判所の裁量で執行猶予を取り消すことができます。

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