おとり捜査の違法と適法の分岐点

この記事を書いたのは:旭合同法律事務所(名古屋)

2016年3月3日、札幌地方裁判所は、警察のおとり捜査が違法であると判断し、拳銃所持事件で既に有罪が確定していた男性の再審開始を決定しました。

報道によりますと、元船員だったロシア人男性は、97年(平成9年)に船で小樽港に初来日した際、警察の協力者のパキスタン人から、拳銃と高級中古自動車の交換を持ちかけられました。

その男性は、一旦帰国して再来日するとき父親の遺品だった拳銃を持って小樽港に入りましたが、拳銃所持の現行犯で逮捕されました。

起訴された男性の公判では、捜査を担当した元警部補が証言でおとり捜査を否定したことなどから、翌98年に懲役2年の実刑が言い渡されて確定し、男性は服役を済ませていました。

その後、元警部は覚せい剤使用などの容疑で逮捕・起訴されましたが、その中で「外国人に拳銃を持ち込ませるよう、協力者に指示していた。」と、おとり捜査を認める供述をしました。

3月3日の札幌地裁決定は、この供述を再審開始に必要な新証拠であると認定し、「警察から指示された協力者が拳銃と車を交換すると誘惑したことが事件につながったものであり、犯罪を抑止すべき国家が銃器犯罪を作り出した。」と指摘し、違法なおとり捜査であると判断しました。

最高裁判所は平成16年7月12日の決定で、おとり捜査が適法とされるには少なくとも「1.直接の被害者がいない薬物犯罪などの捜査 2.通常の捜査方法だけでは犯罪の摘発が困難 3.機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者が対象」という3つの要件を満たしていることが必要であると、3基準を示しています。

今回の小樽港での拳銃所持事件で用いられたおとり捜査が違法であると判断された分岐点は、最高裁3基準のうち3番目の要件を満たしていないためです。

元々犯罪を行う意思のない者に働きかけて犯罪を行わせて検挙するという捜査は、違法なおとり捜査です。このように罠にはめて違法に集められた証拠は、裁判で使うことができません。


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