飲酒運転であることが事故の賠償額に影響するのか?

この記事を書いたのは:旭合同法律事務所(名古屋)

交通事故の被害に遭ったとき、加害者が飲酒運転であった場合、賠償額の慰謝料に影響するのでしょうか?

前提として、飲酒運転の交通事故において加害者の自動車保険の補償対象になるのか?

加害者に飲酒運転という法令違反があっても、被害者に対しては、「自賠責保険」や「任意保険」の「対人賠償保険」及び「対物賠償保険」による補償の対象になります。

保険制度における「被害者救済」の観点から、飲酒運転に限らず無免許運転等を含めて法令違反による交通事故の場合にも、加害者が加入している被害者のための保険は適用されることが理由です。

被害者にとって、加害者の飲酒運転は、事前には予期できないことですから、「被害者救済」の観点からすれば当然とも言えます。

最近の裁判所の裁判例の傾向としては、①交通事故の事故態様が悪質であったり、②交通事故後の行動は極めて悪質と判断できる場合には、一般的な交通事故の慰謝料額を上回る慰謝料が認定される傾向にあります。

交通事故における飲酒運転は、無免許運転等と含めて事故態様が悪質な場合に該当することになります。

実際の裁判例では、飲酒以外にも悪質と判断できる事情が複数ある場合が多いのでその事情も慰謝料の算定において加味されていることが多いです。

交通事故の死亡事故における慰謝料は、実務的には以下の基準額となることが多いです。

一家の支柱    2800万円

母親、配偶者   2500万円

その他      2000から2500万円

(事例1)

加害者が忘年会の終了後、飲酒運転で帰宅する途中、高速道路を一般道と間違えて逆走して一家の支柱である男性の死亡事故を発生させた事例があります。

この事例では遺族の病気がちの妻が自殺を図ったこと、加害者の謝罪に問題があったこと等の事情もありました。

裁判所としては通常の慰謝料額(一家の支柱・2800万円)を超える3600万円の死亡慰謝料額を認めています(東京地裁平成15年3月27日判決)。

(事例2)

加害者が多量の飲酒をして正常な運転が困難な状態で運転を行い、仮眠状態に陥って主婦兼アルバイトの女性の死亡事故を発生させた事例があります。

この事例では加害者の運転動機が身勝手であったこと、死亡した女性には3人の子供があったこと等の事情もありました。

裁判所としては通常の慰謝料額(母親、配偶者・2500万円)を超える3200万円の死亡慰謝料額を認めています(東京地裁平成18年10月26日判決)。

(事例3)

この事例はかなり特殊な事例です。

加害者は、免許取消処分を受けて無免許となったまま長期間に渡って毎日通勤に自動車を使用し、かつ、飲酒運転も常態化したまま赤信号無視で男子高校生の死亡事故を発生させた事例です。

この事例では、同乗者が加害者に制止をしたのに制止を無視して赤信号無視で交差点に進入したこと、事故後に頭部から大量の血を流して倒れている被害者(男子高校生)に対して「危ないやないか」と怒鳴りつけ、持ち上げて揺すり、投げ捨てるように元に戻したという極めて悪質な態度がありました。

裁判所としては通常の慰謝料額(その他・2000から2500万円)を超える3900万円の死亡慰謝料額を認めています(大阪地裁平成18年2月16日判決)。

(事例4)

加害者は、飲酒運転で縁石にぶつかりながら蛇行運転し、料金所の職員から注意されても無視して運転を続け、サービスエリアで更に持ち込んだウイスキーを飲酒して飲酒運転を継続して、被害者の車両に追突して炎上させ、被害車両に閉じ込められた姉妹(3歳の子と1歳の子)を焼死させた死亡事故の事例です。

裁判所としては通常の慰謝料額(その他・2000から2500万円)を超える3400万円の死亡慰謝料額を認めています(東京地裁平成15年7月24日判決)。

追跡行為による飲酒事故での珍しい裁判例

過去の裁判例のなかには、追跡行為による飲酒事故での珍しい裁判例もあります。これは、飲酒運転の加害者が衝突の危険がなかったにもかかわらず、被害者に対して「こら、何飛び出しとんじゃ」と怒鳴ったうえ、被害者に対して危険な追跡行為を行って追突事故を起こした事例です。裁判所は、事故惹起時点までの慰謝料として25万円を認めています(大阪地裁平成7年12月25日判決)。


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