事業継承
この記事を書いたのは:旭合同法律事務所(名古屋)
事業承継をスムースに
会社を経営されている方は、将来、長男に経営を引き継ぎたい(事業承継)と考えておられる方が多いと思われますが、特に複数の子供さんがいらっしゃる場合は、財産をどのように分配するかが問題になります。
社長さんの所有財産が会社の株しかなければ全部長男に与えてしまうと他の子供さんから不満が出ます。
他の兄弟から長男に対して遺留分減殺請求をされる可能性もあります。)
かといって会社の株を他の子供達にも分配してしまうと長男の経営に対して他の兄弟が株主として口を出すことになり長男の経営を阻害することにもなりかねません。
このような場合には、例えば一つの方法として議決権の無い株式を追加発行しておいて長男以外には議決権の無い株を相続してもらえれば経営に口を出すことはできませんから相続争いを阻止することができます。
Q & A方式?事業承継
- 社長 私もそろそろ年なので、会社を長男に継がせたいと思うのだが、いい方法はあるかね?
- 太郎 よく相談に見えましたね。何もしないで万一のことがあると大変ですよ。
- 社長 どう大変なんだね?
- 太郎 社長のところは、奥さんとご長男さんの他に相続人はどなたでしたっけ?
- 社長 二男も会社を手伝っているし、常務の肩書きをつけてある。あと、結婚した長女と二女がいるが。
- 太郎 株主はどうなってますか?
- 社長 全部私が出資したが名義は、私が80%で長男に20%分けてある。
- 太郎 そうすると社長に万一のことがあって法定相続分で相続すると、奥さんが40%、長男が30%、二男・長女・二女がそれぞれ10%となりますね。
皆さんが仲良く話し合ってくれればいいですが、揉めだすと誰も過半数を持っていませんから、会社経営に支障をきたし、従業員の生活にも影響がでかねません。
社長のところは別でしょうが、会社がらみで親族で揉めだすと骨肉の争いになりかねませんよ。 - 社長 それは困るね。どうすればいいかね?
- 太郎 長男さんを後継者にするご予定なら、社長が元気なうちに親族のほか、社員や取引先に長男が後継者であることの理解をしてもらっておくことが第1でしょう。
- 社長 専務にしてあるし、取引先や銀行には連れまわしている。
- 太郎 そうすると次に株式や個人資産のうち会社で使っているものなどを長男さんに集中させておく方が好ましいですが、遺留分なんかにも注意して、生前贈与するのか遺言で相続させるのか、税金にも注意して決めておく必要がありますね。
暦年課税制度や相続時清算課税制度などがありますから資産状況に応じて、どちらを選択するか考えたほうがいいですね。 - 社長 その他には何か考えておくことはないかね。
- 太郎 株式は一旦分散すると集めるのは大変ですので、とにかく分散しない方法を考えておいたほうがいいですね。
例えば、会社法の改正により株主の相続人に対して会社から売渡請求ができるようになったので、それができるように定款変更をしておいた方がいいかもしれません。
社長は80%の株式を持っているので、1人で3分の2以上の株式を持っているわけですから今なら大概のことは社長1人の意思でできますよ。 - 社長 他には?
- 太郎 社長の資産状況にもよりますが、長男さんに集中させると他の親族から不満が出るかもしれません。種類株式を発行して、他の相続人には会社運営に支障のない株式を相続させるとか。
- 社長 種類株式とは何だね?
- 太郎 会社は1種類の株式だけでなくいろいろな種類の株式が発行できるのですが、例えば議決権はないが配当を多くもらえる種類の株式を発行して嫁いだ娘さんに相続させたりすると、娘さん方は会社経営にそもそも興味はないでしょうから議決権がなくても文句はないでしょうし、配当を多くもらえるので生活の足しにでき、満足されるとか、拒否権条項をつけた株式を発行して二男さんに相続させ、長男さんが暴走したときは止められるようにするとか、種類株式は9種類くらいあったと思うのでいろいろバリエーションを考えてもいいと思います。
- 社長 なるほど。いろいろ考えておかないといけないことがあるんだね。
- 太郎 社長は親族に後継者がおられるからいいですが、親族に後継者がいない場合は、従業員などへ事業を承継しようとするとまたいろいろ考えないといけませんし、後継者がいないようなら、M&Aなども視野にいれないといけない場合もありますね。
- 社長 M&Aはよく聞くが、どういう意味かね。
- 太郎 「合併(merger)」と「買収(acquisitions)」の英語の頭文字を取ったものですが、後継者候補がいなくても従業員の生活は守ってやらないといけませんし、長年付き合いのあった取引先の仕事のことも考えないと無責任ですよね。会社も社会的に存在するものですから放り投げるわけにはいきません。
- 社長 そりゃそうだ。経営者としては、会社は形を変えてでも残って欲しいと思うからね。
- 太郎 いずれにしても、経営者の元気なうちにどういう承継の方法がいいのか、専門家に相談してその会社に合った承継の方法を早めに考えておくべきでしょう。
事業承継と会社法の活用
会社法では、種類株式(議決権や財産権等が普通と異なる株式)を用いて、議決権をコントロールすることが可能です。
これが事業承継に活用できます。
まずは、議決権制限株式の発行です。
議決権制限株式とは、株主総会での特定の議決権が制限された株式です。
後継者以外に議決権制限株式を相続させることで、後継者に議決権を集中することが可能となります。
また、拒否権付種類株式(黄金株)の発行もあります。
拒否権付種類株式(黄金株)とは、株主総会の特定の決議事項について、拒否権を有する株式です。
これは、現経営者が一定期間黄金株を保持し、信頼がおけるようになるまで後継者の経営に睨みを利かせることが可能です。
具体的な実施には色々な準備が必要となりますので専門家への相談が大切です。
事業承継問題
近年は、近親者に対する事業承継がだんだん減ってきており、第三者に対する事業承継が増えてきているようです。
なかなか承継者が見つからず事業が廃止されるなどで雇用にも影響が出るということで中小企業基盤整備機構と言うところが事業引継ぎ支援センターを各地に設置し、事業を承継してくれる相手方を見つけるお手伝いをしてくれるようです。
年間数億円の売り上げを有する企業から町のお弁当屋さんまで色々な後継者の相談が来るそうです。
せっかくの企業が閉鎖されることなく希望する後継者を探して継続することは大切なことですね。
この記事を書いたのは:
旭合同法律事務所(名古屋)