名張毒ぶどう酒事件の第7次再審請求

この記事を書いたのは:旭合同法律事務所(名古屋)

三重県名張市で1961年に起きた「名張毒ぶどう酒事件」の奥西勝死刑囚(87)による第7次再審請求の特別抗告に対する最高裁の決定がありました。

ぶどう酒に混入された毒物が、自白に基づく農薬「ニッカリンT」だったか否かが争点です。

最高裁は「弁護側が新証拠として提出した鑑定は、毒物がニッカリンTであることと何ら矛盾しない。死刑囚が事件前に自宅で保管していたという状況証拠の価値や、自白の信用性にも影響は及ぼさない」と結論付け、請求を退けた名古屋高裁の差し戻し異議審決定(2012年5月)を支持し、死刑囚側の特別抗告を棄却しました。

名古屋高裁の差し戻し異議審では、事件直後に近い手法で改めて鑑定が行われ、不純物は検出されませんでした。

名古屋高裁は、不純物の元になる物質が短時間で加水分解する性質であることを踏まえ「当時の鑑定は事件翌日以降に行われ、(時間の経過で)不純物の元になる物質は分解してなくなったと考えられる」と判断しています。最高裁は「合理的な科学的根拠を示した」と支持した。

裁判官4人全員一致の意見です。検察官出身の横田尤孝(ともゆき)裁判官は審理を回避しています。

毒物を巡っては、事件直後の捜査側の鑑定で、ニッカリンTに水が加わると生じる不純物が、現場に残されたぶどう酒から検出されなかった一方、比較のためにニッカリンTを入れた新品のぶどう酒からは検出されました。弁護側はこの点に注目し、第7次再審請求で「事件で使われた毒物は別の農薬の疑いがある」との専門家の鑑定書を提出しています。

名古屋高裁刑事1部は05年、この鑑定書などを新証拠として再審開始を決定しましたが、検察側が異議を申し立て、名古屋高裁刑事2部が取り消しました(複雑ですよね)。弁護側の特別抗告に対し、最高裁は10年、「高裁は弁護側鑑定について科学的知見に基づく検討をしたとは言えない」と述べ、さらなる鑑定を求めて審理を高裁刑事2部に差し戻しました。

02年4月の申し立てから約11年半を経て、再審が開かれないことが確定しました。弁護団は第8次再審請求をする方針のようです。


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