ワンセグ携帯と受信料支払義務

この記事を書いたのは:旭合同法律事務所(名古屋)

ワンセグ対応の携帯電話のみを所有し、テレビを所有していなかった男性が、NHKに対し、受信契約を締結する義務がないことの確認を求めた裁判がありました。

放送法64条1項
「協会(NHK)の放送を受信することのできる受信設備を『設置』した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。」

争点は、放送法64条1項本文の「設置」には、携帯電話の「携帯」が含まれるか、仮に含まれるとしても、携帯電話は但書の「放送の受信を目的としない受信設備」に当たるか、というものでした。

受信料の支払義務はない判決

裁判所は、放送法の「設置」には、「携帯」の意味を含まないので、受信契約を締結する義務はない(受信料の支払義務はない)と判決しました。

裁判所は、その理由として次のようなことを述べています。
①放送法は、受信設備を設置した者に対して、実際に視聴するか否かにかかわらず受信契約を締結する義務を負わせているから、受信料は放送の視聴に対する対価とは言えず、維持運営のために特殊法人であるNHKに徴収権を認めた特殊な負担金である。
②NHKは公共の福祉のために放送することを目的とした特殊法人であって、受信料の徴収権を有するNHKは国家機関に準じた性格を有している。そうすると、受信料の負担については租税法律主義(憲法84条、財政法3条)の趣旨が及ぶべきで、その負担の要件は明確であることを要する(課税要件明確主義)。
③放送法の「設置」が「携帯」を含むとするのは、文理解釈上、相当の無理がある。

@さいたま地裁平成28年8月26日判決(判時2309号48頁)

ワンセグ携帯と受信料支払義務(肯定判決)

裁判所は、放送法の「設置」とは、NHKの放送を受信することのできる受信設備を使用できる状態におくことをいい、「携帯」をも包含する、と判示し、受信料の返還請求を棄却しました。

裁判所はその理由として、次のようなことを述べています。
①放送法は、NHKを公共的機関と位置づけ、国や広告主の影響を避け自主的な番組編集を行わせるために、NHKの運営費用を国民に公平に負担させている。そうであれば、放送法の「設置」とは、放送を受信できる受信設備を使用できる状態に置くことと解するのがその趣旨に沿う。
②放送法の「設置」を一定の場所に置くことと解すると、一定の場所や置くという概念が相対的であるので、受信機の移動可能性、設置場所との接着性の程度などによって契約締結義務の有無が変わりうる事態が生じかねず(ポータブルテレビなど)、国民に公平に負担させるという放送法の趣旨に照らし相当ではない。

@水戸地裁平成29年5月25日判決(裁判所ホームページ)


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