相続・遺産を受け取る立場の方

遺言書と遺産を受け取る手順

遺言があるけど、そのときの遺産を受け取る手順はどのようなものでしょうか。
ここでは、公正証書遺言がある場合と自筆証書遺言がある場合とを分けてご説明しますね。

公正証書遺言がある場合

公正証書遺言がある場合、その遺言にはほとんどの場合、遺言執行者(遺言を実現する人)が決められていると思います。
あなたとしては、遺言執行者に被相続人が亡くなったことを連絡しさえすれば、あとは遺言執行者が遺言を執行(実現)してくれます。
例えば、預金の場合であれば、遺言執行者が預金を解約してくれ、遺言書に定められたとおりにしてくれます。
あなたは、遺言執行者の仕事が終わるのを待つだけで大丈夫です。
遺言執行者は、どれくらいでその仕事を完了できるかですが、事案によってもまちまちですが、少なくとも2~3か月はかかると思っておいて下さい。

自筆証書遺言がある場合

自筆証書遺言の場合は、まずは、遺言者の死亡を知った後、すぐに家庭裁判所に「検認」の申立をしなければなりません。
検認というのは、すべての相続人に対し遺言の存在とその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、日付、署名などの遺言書の内容を明確にして、偽造・変造を防止するための手続です。封印のある遺言書では、家庭裁判所で相続人の立会の上開封しなければならないことになっています。
もし、遺言書の中で遺言執行者の定めがない場合は、必要があれば、家庭裁判所に遺言執行者の選任申立を行い、遺言執行者を指定してもらわなければなりません。
あとは、その遺言執行者が遺言を実現してくれます。
なお、公正証書遺言でも、遺言執行者の定めがない場合は、必要があれば、やはり家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらう必要があります。その点は自筆証書遺言と同じです。

遺言書の内容に不満がある場合

たとえば、親が亡くなって、相続人として長男と次男がいるとします。そして、親が「すべての遺産を長男に相続させます」という遺言書を書き残していたとしますね。
あなたが次男だったらどうしたら良いのでしょうか。
まずは、遺言を残した親の気持ちをよく考えないといけません。
それでも、どうしても親が書き残した遺言に納得ができなければ、「遺留分減殺請求」「遺言無効」というものを検討することになります。

遺留分

この次男には、「遺留分」という権利があります。
遺留分とは、簡単に言うと、遺言によっても剥奪されない権利のことです。
この「遺留分」の権利を行使することを「遺留分減殺請求」と呼びます。
遺留分という権利を持っているのは、被相続人(故人)からみて、「配偶者(夫・妻)」「子供」「直系尊属(親など)」です。
「兄弟姉妹」には遺留分はありません。
この遺留分減殺請求をすれば、遺言によって財産を取得する人(長男)に対し、一定の割合の遺産の引き渡しを求めることができます。
遺留分で保護される割合は、原則として法定相続分の2分の1ですが、「直系尊属のみが相続人であるとき」は法定相続分の3分の1となっています。
先ほどの例の次男であれば、長男に対して遺産の4分の1の引き渡しを求めることができます。
ただ、この遺留分ですが、遺言の存在及びその内容を知ってから1年以内にその権利を行使しなければいけません。
これを過ぎると、消滅時効によりもう遺留分を主張することができなくなるので、注意が必要です。

遺留分Q & A

子供には遺留分があると間きましたが、遺留分とは何ですか?
遺言者は遺産の分配を自由に決定できるのが原則ですが、一定の法定相続人(子供、妻など)には、法定相続分の一部を保障しなければなりません。これが遺留分です。
例えば遺言書で長男が全財産を取得することになった場合、外の兄弟は長男に対して遺留分を主張できるのです。
遺留分を主張できる人は誰ですか?
妻は常に遺留分を主張できます。また遺言者に直系卑属(子供、孫など)がいる場合には直系卑属、直系卑属がいない場合には遺言者の直系尊属(父母、祖父母など)が遺留分権利者です。
なお兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺留分の割合はどのくらいですか?
相続人が妻と直系卑属の場合にはそれぞれの法定相続分の二分の一です。相続人が直系尊属のみの場合にはそれぞれの法定相続分の三分の一です。
遺留分の金額はどのように計算するのですか?
原則としては死亡の際の遺言者の資産から遺言者の負債を差し引いた金額に遺言者が生前に贈与していた金額(原則として死亡一年前までのもの)を加算した金額を基準とします。
遺留分の請求の時効はありますか?
民法によれば遺言者の死亡後、自己の遺留分を侵害されたことを知った時から一年以内に遺留分の請求を行わなければなりません。
遺留分請求の方法はどうすればよいでしょうか?
口頭での請求も可能ですが、通常は証拠を残すために内容証明郵便による方法が安全でしょう。
遺留分は放棄できますか?
はい。放棄する場合には特に意思表明は不要です。
遺留分を請求しなければ前述のように一年の経過で遺留分請求権は消滅します。
また遺言者の生前に家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄することも可能です。

遺言無効

遺言者が、遺言を書いた当時、遺言できるような能力はなかったと認められる場合や、遺言が偽造だと思われる場合には、遺言の無効を主張する方法もあります。
例えば、遺言作成当時、遺言者は重度の認知症により施設に入所していた場合、遺言の筆跡が本人のものとは異なる、などがこれにあたります。遺言が無効になると、遺言がなかったことになります。先ほどの例でいうと、次男は法定相続分に応じた権利、すなわち遺産の2分の1を主張できることになります。
ただ、遺言者が遺言した当時、遺言できる能力がなかったと証明することはなかなか困難なことも多いです。遺言書が公正証書遺言であれば証明のハードルはより高くなります。

遺言書がない場合に遺産を受け取る

遺産を受け取ることを考えている方は、どのような手順で遺産を受け取れるのでしょうか。
遺言書がある場合と遺言書がない場合とでは、その扱いが大きくことなります。ここでは、遺言書がないときを説明しますね。
遺言書がない場合、どのような手順で進めていけば良いのでしょうか。

遺産分割協議

遺産を受け取るためには、まずは相続人全員で「遺産分割協議」をすることから始まります。
遺産分割協議というのは、遺産のうち、誰がどの遺産を取得することにするかを話し合うことです。
本来は遺産分割協議の対象でないものも、任意の話し合いであれば協議することができますし、その方が実情に応じた解決をすることができることが多いです。
そして、この遺産分割協議は、最終的には「相続人全員」で話し合う必要があります。そのため、どういう人が相続人になるのかを知っておく必要があります。

誰が相続人かを知っておこう

どういう人が相続人になるかというと、被相続人(故人)から見て、

①まず「配偶者」は常に相続人です(内縁関係の妻や夫は相続人ではありません)。

②その上で、「子供」(養子を含む)がいれば、子供も相続人となります(子供がすでに亡くなっていれば、その子供、つまり孫が相続人となります。これを代襲相続と呼びます。その孫もすでに亡くなっていればその孫の子供も相続人となり、これを再代襲相続と呼びます)。

③そして、「子供」がいなければ(その代襲相続・再代襲相続もなければ)、「直系尊属」(父母、祖父母など)が相続人となります。

④「子供」も「直系尊属」もいないときには、「兄弟姉妹」が相続人となります(兄弟姉妹がすでに亡くなっていればその子供も相続人となります。これを代襲相続と呼びます)。

遺産分割協議書の作成

そして、遺産分割協議を行う際には、それぞれの相続人の法定相続分はどれくらいか、どのような遺産があるのか、各遺産の価値はいくらなのか、などをお互いに明らかにして協議にのぞみましょう。そうでないと、遺産分割に関する適切な判断はできません。
そして、話し合いがまとまれば、「遺産分割協議書」という書類を作成して、相続人全員が署名押印(実印・印鑑証明書添付)するのが一般的です。
ただ、預金や保険を実際に分割するためには、上記遺産分割協議書とは別に、銀行や保険会社所定書面に共同相続人全員の署名・捺印が必要な場合がありますので、そういうときは、遺産分割協議書の作成の際には事前にこれらの書面を準備して同時に署名・押印してもらった方が良いでしょう。
話し合いがスムーズにいかないなどのことがあれば、この段階で弁護士に相談して下さい。
話し合いがこじれ過ぎると、解決に長期間を要することになりかねません。
大きくこじれる前に、早めに弁護士に依頼する方がスムーズに解決できます。

遺産分割協議がまとまらない時①

遺言もなく、遺産分割協議もまとまらないときは、法律の助けを借りて解決していくしかありません。
でも、その前に、あなたが悩まれているものが、本当に「遺産分割協議」が必要なものなのでしょうか。
そこを、まずは、知っておく必要があります。
法律に照らすと、そもそも「遺産」ではない、とか、遺産ではあっても遺産分割協議の「対象」にはならないものが多くあるんです。
こうしたものであれば、そもそも、相続人間で話し合い(遺産分割協議)をする必要もない訳です。

「預貯金」は遺産であり遺産分割の対象となりました。

これまで、預貯金は、被相続人の死亡により、相続人に法律で定められた相続割合に応じて、当然に分割承継されることになっていました(つまり、遺産ではあるものの、遺産分割の対象ではなかった訳です)。
しかし、最高裁平成28年12月19日大法廷決定によって、それまでの判例が変更となり、預貯金は遺産であり、かつ、遺産分割の対象となりました。

「生命保険金」は遺産ではありません

被相続人に対して生命保険が掛けられていると、被相続人の死亡によって生命保険金(死亡保険金)がおりてきます。
生命保険を契約するときは、ほとんどの場合、死亡保険金の受取人が指定されています。
その場合、生命保険金(死亡保険金)は「受取人」の「固有の財産」とされています。
つまり、生命保険金は相続財産(遺産)ではありません。そのため、遺産分割協議の対象にもなりません。
では、生命保険金の受取人が指定されていない場合どうでしょうか。
この場合は、生命保険約款でだれが受取人となるかが定められています。そして、多くの場合は、相続人となっているかと思います。
その場合、保険契約に基づいて相続人が保険金請求権を取得することになるだけで、相続財産(遺産)ではなく、やはり遺産分割協議の対象とはなりません。
なお、保険金を受け取る割合についても、生命保険約款で決められていることが多いですが、もしその規定がなければ、相続人の頭割りではなく、法定相続割合に応じて取得することになると考えられています(相続割合説)。
他方、生命保険金の受取人が、「被相続人」自身と指定されていた場合は、その生命保険金は遺産となり、遺産分割協議の対象になります。
なお、簡易保険の場合は、簡易生命保険法によって、受取人の指定がない場合について定めていますので(簡易生命保険法第55条)、それによることになります。

「死亡退職金」は遺産ではありません

お勤めをしている被相続人が亡くなった場合、勤務先から死亡退職金がおりることがあります。
そして、その死亡退職金は、ほとんどの場合、勤務先の就業規則等で受取人が定められています。
そのため、その「受取人」の「固有の財産」であり、そもそも相続財産(遺産)ではありませんし、よって、遺産分割協議の対象にもなりません。
ただし、就業規則等で受取人が定められていない場合には、個々のケースによることになりますが、相続財産(遺産)として遺産分割協議の対象となる例が多いようです。

「借金」は遺産ですが遺産分割協議の対象ではありません

被相続人が亡くなった場合、負の遺産である借金を残している場合があります。
借金(負債)については、預貯金と同様で、相続人に法定相続の割合に応じて当然に分割承継されることになっています。
そのため、遺産(負の遺産)ではありますが、遺産分割協議の対象とはなりません。

「未支給年金」は遺産ではありません

被相続人が亡くなった時点でまだ実際に支給を受けていない年金は、被相続人と生計を一にしていた「遺族固有の権利」であり、相続財産(遺産)ではありません。そのため、遺産分割協議の対象にもなりません。
なお、遺族年金なども遺産ではありませんので、遺族固有の権利として受給できます。

「祭祀財産(お墓や仏壇など)」は遺産ではありません。

お墓、仏壇、位牌、遺骨など(祭祀財産)は、仮に高い価値があったとしても、相続財産(遺産)ではありません。
もちろん、祭祀財産を引き継ぐ人について遺言等で指定されていなかった場合には、相続人のうちの誰が引き継ぐかという話し合いは必要になりますが、それは遺産の分割協議ではありません。

「葬儀費用」は遺産から支出するものではありません

葬儀費用は遺産から支出するものだと思われる方が多いかもしれません。
しかし、例えば、名古屋高裁平成24年3月29日判決は、相続人や関係者の間で葬儀費用の負担について合意がない場合には、葬儀に要する費用については同葬儀を主宰したものが負担し、そのうち埋葬等の行為に要する費用は祭祀主宰者が負担するものだと判断しています(喪主負担説)。つまり、事実上、葬儀代は払った者が損をする(自腹を切る)、ということになってしまっています。今のところ、この喪主負担説が優勢です。
そのため、葬儀費用は、遺産(負債)でもなく、遺産分割協議の対象でもありません。
弁護士としてもおかしな結論だと感じていますが、今のところこうした解釈が優勢です。

その他

不動産は遺産として遺産分割の対象となります。
不動産賃借権は不可分的権利なので、遺産分割の対象となります。
株式、社債、国債も、不可分的権利なので、遺産分割の対象となります。
投資信託は、不可分的権利なので、原則として遺産分割の対象となりますが、約款で一部解約が認められている場合は例外的に可分債権と同様に考える余地があり、そのときは遺産分割の対象となりません。
現金は、遺産分割の対象となります。
遺産から生じた果実や収益(相続開始後の賃料、利息及び配当金等)は遺産分割の対象とはなりません。
なお、簡易保険の場合は、満期日の到来の前後で取り扱いが変わるものがあり、簡易生命保険法第55条に留意する必要があります。

遺産分割協議がまとまらない時②

遺産分割協議の「対象」となる「遺産」であるのに(不動産など)、どうしても遺産分割協議がまとまらなかった場合には、どうしたら良いでしょうか。
そのときは、家庭裁判所に対し「遺産分割調停」の申立てをして解決していくことができます。
どこの家庭裁判所に申立てをするかというと、原則的には、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てをすることになります。
なお、遺産分割調停は相続人全員が参加して行う必要があるので、例えば、4人の相続人のうち2人が揉めてしまい話し合いがつかなかった場合でも、4人全員が遺産分割調停に参加しなければなりません。参加したくない方は、自己の相続分をどなたかに譲渡するなどして、その調停手続きから脱退することができます。
遺産分割調停では、まず「相続人になる人」(だれが相続人か)と「遺産の範囲」(遺産分割調停の対象となる遺産は何か)を確定し、その後、原則として「法定相続分」にしたがって解決していくことになることが多いです。その上で、誰が具体的にどの遺産を取得するのかという分割の方法を話し合うことになります。

原則としての法定相続分

では、それぞれの相続人の「法定相続分」はどのように決められているのでしょうか。
それは、誰が相続人であるかによって異なります。
法定相続分について具体的に説明すると、被相続人(故人)から見て、

①「配偶者」と「子供」が相続人であるときは、配偶者の相続分および子供の相続分はそれぞれ2分の1となります。

②「配偶者」と「直系尊属」(父母など)が相続人となる場合には、配偶者の相続分が3分の2、直系尊属(父母など)の相続分が3分の1となります。

③「配偶者」と「兄弟姉妹」が相続人であるときは、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。

④子供、直系尊属(父母など)または兄弟姉妹が数人いるときは、各自の法定相続分は等しくなります。

例えば、相続人が妻と子供2人(息子と娘)の例で考えると、妻の相続分は2分の1、息子と娘の相続分はそれぞれ4分の1ずつとなります。
ただ、兄弟姉妹が相続人である場合で、かつ、全血兄弟(父母を同じくする兄弟姉妹)と半血兄弟(父又は母の一方のみを同じくする兄弟姉妹)がいるときは、全血兄弟の相続分と比較して、半血兄弟の相続分は2分の1となっています。

特別受益や寄与分(法定相続分の修正)

遺産分割調停では、すでに述べましたように、原則として「法定相続割合」を基準として分割の話し合いが行われます。
しかし、①相続人の中に被相続人から「特別の受益」(一部の遺産の遺贈、遺産の前渡し的な生前贈与など)を受けている場合や②「寄与分」(被相続人の財産の維持・形成に特別の貢献)がある場合には、この法定相続割合が修正されることもあります。
もっとも、特別受益や寄与の事実は、争いがある場合には、主張した側で立証する必要があり、現実的にはその証明が難しく認めてもらえないケースが多いようです。

調停と審判

誰が何の遺産を取得するかの合意ができると遺産分割の調停が成立することになります。
逆に、合意ができないと調停が不成立となり、「審判」という手続きに移行して、裁判所が遺産の分割方法について審判を下すことになります。
つまり、裁判所が、原則として法定相続割合を基準として、例外的に特別受益や寄与分の証明があればその法定相続割合を修正し、その上で、どの遺産をどの相続人が取得することになるかを決めちゃう訳ですね。
しかし、調停が不成立となった理由が「遺産の範囲」に争いがあるなどの場合には、訴訟を提起する(遺産確認の訴えという民事裁判)必要が生じます。たとえば、ある株式が被相続人の遺産だということで話し合いをしていたけども、相続人の一部から、その株は遺産ではない、私の固有の財産だ、という主張がでた場合には、遺産であると主張する者が遺産確認訴訟(株は遺産であると確認して下さいという訴訟)を提起する必要がでてきます。

遺産から生じた果実

被相続人の遺産として不動産(貸し出している土地など)がある場合、そこから賃料が発生していることがあります。
こうした遺産から生み出される賃料などを法律用語で「果実」と呼びます。
相続人が数人ある場合に、相続開始から遺産分割までの間に遺産(土地など)から果実(賃料)が生じた場合、その果実(賃料)は誰に帰属するかという議論があります。
判例は、遺産(土地など)は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するので、その間に生じた果実(賃料)は、遺産分割の対象とはならず、各相続人がその相続分に応じて確定的に取得する、としています。
その上で、その遺産(土地)をある相続人が遺産分割によって取得することになっても、賃料(果実)の帰属は、この遺産(土地)の遺産分割によって影響を受けない、としています(最高裁平成17年9月8日判決)
これをざっくり説明すると、被相続人(父)の相続人として長男と次男だけがいるとします。
父には貸し出している土地がありました。
この土地は、当然、遺産分割の対象になりますので、遺産分割が整うまでは、長男と次男のどちらが取得することになるかが決まらず、共有状態となります。
他方、この土地から生じている賃料は、遺産分割の対象とはならず、当然に、長男と次男がそれぞれ2分の1を取得することに確定します。
このことは、後で、遺産分割によって土地を長男がすべて取得することになっても、結論に変わりはない(相続開始後から遺産分割時までの賃料の2分の1を次男が取得することに変わりはない)、ということです。
そのため、収益不動産の遺産分割をするときは、相続開始後から遺産分割までに生じた賃料をどうするかも話し合っておく必要があります。

特別受益について

特別受益とは、共同相続人の中に、被相続人から遺贈、又は婚姻、養子縁組もしくは生計の資本としての生前贈与(これらが特別受益といいます)を受けた者があるときは、、相続分の前払いがあったものとして、各相続人の具体的相続分を算定する、というものです。
たとえば、親が亡くなって相続人として子供2人(長男・次男)いるとします。遺産としては600万円あるが、長男は200万円の特別受益を受けていたとすると、長男と次男の具体的相続分としては、長男200万円(特別受益200万円とは別に)、次男400万円となる、というものです。
特別受益の種類には次のようなものがあります。

遺贈

遺言によって、遺言者の財産の一部を無償で譲渡する遺贈は、特別受益に当たります。 「相続させる」という文言での遺言でも同じです。

生前贈与

これが特別受益に当たるかどうかは、婚姻、養子縁組、生計の資本としての贈与など遺産の前渡しとみられるかどうかで判断します。
生計の資本としての贈与とは、たとえば、居住用不動産の贈与やその取得のための金銭の贈与、営業資金の贈与、高等教育の学資など生計の基礎として役立つような財産上の給付をいいます。具体的には、贈与金額の多寡、贈与の趣旨などから判断します。
もっとも、高等教育の「学資」については、親子の場合、特別に多額なものでない限りは、親の扶養義務の履行としての支出とみて、特別受益には当たらないと判断されることが多いでしょう。
また、「贈与」とあることから、被相続人から贈与がなされたことが必要であり、相続人が無断で被相続人の財産を費消したような場合は特別受益とは言えません。 他方、純粋な贈与と言えなくても、被相続人による「財産の無償提供」であれば、遺産の前渡しと見られれば、特別受益となります。たとえば、債務免除や次に述べる不動産の無償使用なども特別受益と評価されることがあります。
では、特別受益とされるかがよく問題になるものをご紹介しましょう。

① 不動産の無償使用

たとえば、被相続人所有の「土地」上に相続人が建物を所有し、無償で使用していれば、通常、使用借権の設定が特別受益と評価されます。 他方、「建物」の無償使用は、通常、恩恵的性格が強く、経済的価値も低いので、特別受益には当たらないと評価されるでしょう。

② 継続的な金銭援助

少額なものであれば、特別受益には当たりません。 ただ、毎回の金銭が少額であっても、それが相当長期間にわたり、その合計金額が多額になった場合は、特別受益とされる余地がありますが、ただ、そのような金銭援助が病気の子供に対する援助など扶養とみられる場合は、特別受益には当たらないとされるでしょう。

③ 生命保険金

生命保険金(死亡保険金)は、特別受益には当たりません。 ただし、保険金額が遺産総額の6割を越えるような場合は、特別受益に準じて処理されると言われています(東京家裁の実務)。なお、被相続人が相続人の特別受益について持戻し免除の意思表示をしたときは、
それに従うとなっています(つまり特別受益は考慮されません)。 また、特別受益の評価基準時は、「相続開始時」となっています。

寄与分の成立要件

寄与分とは、共同相続人中に、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があれば、法定相続分よりもその寄与分に応じて、より多く遺産を相続できる、というものです。 寄与分とは法定相続分を修正するものの一つです。
そして、寄与分の種類には、家業に従事したもの、扶養をしたもの、金銭出資をしたもの、療養看護をしたもの、などがあります。
よく裁判で主張されるのは、「私は、被相続人の面倒をずっと看てきた、だから法定相続分以上の遺産を取得したい」というものですね。
その気持ちはよく分かります。高齢者の面倒を看るということは本当に大変なことですから。
では、寄与分が認められるための要件とはどのようなものでしょうか。
寄与分が認められるための成立要件は次のとおりとなっています。

① 特別な寄与であること

② 被相続人の生存中における相続人自身の行為であること

③ 無償性(無償による行為であること)

④ 因果関係(被相続人の財産の維持・増加との因果関係があること)

すこし詳しく説明すると、 まず、「特別な寄与」ですが、これは、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度を大きく越える貢献でなければいけない、ということです。
次に、「被相続人の生存中における相続人自身の行為であること」について補足すると、相続人と同一視できる者による行為であっても良いとされています。たとえば、相続人の配偶者が寄与行為をしたような場合です。
また、寄与行為は、被相続人の生存中でないといけないので、被相続人が亡くなった後の行為(遺産の管理行為など)では駄目です。
また、「無償性」についてですが、寄与行為が給与など報酬を受け取っていたような場合は、寄与があったとは評価されない、ということです。ただ、報酬を受け取っていても、それがわずかで無償に近ければこの要件は満たすとされます。もっとも、寄与行為があっても、被相続人の収入で生活していたり、被相続人の家屋や土地を無償で使用していたりしている場合は、無償性がないとされる要因となります。わかりやすく言うと、被相続人所有の家で同居をしている相続人が家事の援助をしたに過ぎないのであれば寄与分は認められにくい、ということですね。
更に、「因果関係」についてですが、寄与行為が被相続人の財産の維持(債務負担を免れたときもこれに当たります)又は増加につながった行為のみが寄与行為と評価される、ということです。
寄与分を裁判所に認めてもらおうとすれば、これらの要件をすべて満たすことを証明する必要があります。
こうしてみると、なかなかハードルが高いことが分かります。 こうしたことは、一方では、「親(被相続人)の面倒を看た者が損をする」との声があり、他方では、寄与分の成立要件を緩やかにしてしまうと「遺産目当てのために親(被相続人)を囲い込むような行為を助長する」という声もあります。
なかなか悩ましい問題ですが、現状においては、やはり、こうした問題をクリアするためには、被相続人自身が「遺言」を書き残しておき、孝養を尽くしてくれた相続人には手厚い遺産を与えるなどの手当をして、また、被相続人自身が決断したということによって、すべての相続人を納得させることがもっとも円満な遺産相続をさせる方法だろうと思います。

「貸金庫と相続」における銀行実務

貸金庫利用者が死亡した場合、貸金庫契約の性質が賃貸借契約であることから、貸金庫契約上の地位は相続人に相続され、相続人側からの内容物の「引渡」請求や「解約」は全相続人の同意が必要となる(民法251条)。
他方、銀行側は、利用者が死亡した場合、貸金庫規定上、貸金庫契約を解約しようと思えば可能である(当然に解約となるわけではない)。
ところで、前記のように、内容物の「引渡」請求は全相続人の同意が必要であるが、相続人の1人から内容物の「確認」のための貸金庫開扉請求があった場合はどう対応するか。
銀行としては、まずは相続人全員の同意を得るように促し、それが難しい場合には、銀行員の立会(ビデオ撮影もすることもあり)とともに、公証人の立会と事実実験公正証書の作成を条件として、貸金庫の開扉を認めるという。
そして、内容物を「確認」したときに、自筆証書遺言があった場合には、それについては引き渡すか、もしくは、一部の相続人に遺言書検認申立をしてもらって家庭裁判所から銀行に対して検証物提示命令を出してもらうように促すことを検討するという(遺言公正証書の場合は、相続人は公証役場にお願いすれば遺言書謄本を頂くことができる)。
なお、貸金庫契約が銀行側によってすでに「解約」されていた場合は、相続人の1人であっても、使用相当損害金の発生を防止するために貸金庫の内容物の引渡を請求できる余地があるとの指摘がある(この場合、妨害排除請求という保存行為に当たるとされる)。
もっとも、遺言書があって、遺言執行者に貸金庫開扉権限があれば、遺言執行者が貸金庫を開扉できるのは当然です。
遺言がないと貸金庫を開扉するだけでも大変なことがあります。