終活と法律

厚生労働省発表の2017年の日本人の平均寿命は、男性81.09歳、女性87.2歳となり、いわゆる定年延長の議論と共に、どのように人生を終(しま)っていくのか?
自分の人生を振り返り、さまざまな現実的な問題を準備していく、終活と法律問題について考えてみます。

終活とは何か?

近年、「就職活動(就活)」にちなんで「終活」という言葉がクローズアップされています。
「終活」とは、”人生の終わりのための活動”とされ、人生の終(しま)い方を考えるきっかけであると同時に、人生をよりよく生きるための準備活動でもあります。

なぜ終活に取り組むのか?

核家族化が進み、子供世帯と離れて暮らしているような状態や、都市部では地域コミュニケーションも希薄で、いざという時に、誰かが手助けしてくれる関係がなくなってきています。
そうした社会構造の変化を受けて、「子供世帯に面倒なことを任せたくない」という意識が高まっています。
また、生涯未婚で、頼るべき親族もいないという方も増えています。
実際、「高齢者が終活を進めるうえでの課題と支援のあり方に関する研究」
(横浜国立大学大学院 木村由香 2017年6~7月実施)でも、「終活」に取り組む目的・取り組んだきっかけとして、最も多かったのは、「周囲を困らせたくないため」となっています。

高齢者が終活を進めるうえでの課題と支援のあり方に関する研究 図1
出典: 「高齢者が終活を進めるうえでの課題と支援のあり方に関する研究」(横浜国立大学大学院 木村由香 2017年6~7月実施)

終活を通して充実した人生を

「終活」活動でよく引き合いにだされる「エンディングノート」ですが、自分の人生を振り返り、どのように人生を終(しま)っていくのか?そういう活動をすることにより、終活を通して自らの人生を振り返り、これからの充実した人生につなげるという側面もあります。
次に同調査で、「終活の取り組みずらさ」の調査結果で、もっとも多かったのが、「財産の整理や記録」でした。

高齢者が終活を進めるうえでの課題と支援のあり方に関する研究02
出典: 「高齢者が終活を進めるうえでの課題と支援のあり方に関する研究」(横浜国立大学大学院 木村由香 2017年6~7月実施)

相続財産の問題

相続をきっかけとして、仲の良かった家族親族の仲が悪くなってしまうことは、残念ながら少なくありません。
自分には財産が少ないから大丈夫と思いがちですが、残念ながら相続によって争族にいたるケースは、たとえ財産が少なくても生じています。
相続が残された親族間の財産争いの「争族」にならないために、相続に関する「終活」とは大切です。
自分の財産をどのように管理処分するかについて、元気なうちに考えて、自分の思いを遺言書として作成するのが良いでしょう。
そのことが、家族の幸せに繋がることですし、自分の想いや考えを反映させることができるためです。

とにかく遺言書を書き残しましょう

遺言書を書き残しておくことが大切なのは、なぜでしょうか。
それは、あなたに万一のことがあった場合に備え、前もって財産の行き先を指定しておき交通整理の役割を果たしてくれるのが遺言だからです。
遺言書がないということは、あなたの遺産の行き先が決まっていませんから、相続争いが起きやすい状態を放置していることになります。
特に、「子供がいない夫婦」、「自営業の人」、「離婚経験がある人」、「財産が自宅のみの人」、などの場合は、相続争いが起きやすいので、とにかく遺言書を残しておきましょう。また、「身寄りがいない人」も遺言書を書き残しておくべきです。
遺言書は、いつでも、何度でも書き直すことができます。
とにかく遺言書を書いておいて、不都合が起きたら自由に書き直せばいいのです。いつ、何が起きても、あなたの財産をめぐって親族が争う状態だけは避けて、財産の引き継ぎがスムーズに流れる交通整理、それが遺言です。
遺言書を書き残すことは、遺族に対する最大の愛情なのです。

なるべく公正証書遺言を作りましょう

遺言書といっても、いくつかの種類があります。
主なものとしては、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。簡単に言うと、自筆証書遺言とはすべてを遺言者が自署して作成する遺言をいい、公正証書遺言とは公証人に作成してもらう遺言を言います。
どちらの遺言が良いでしょうか。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証人に作成してもらう遺言書です。

遺言書には有効であるための形式があることや、紛失や変造の危険性があることから、公証人という法律の専門家が関与する公正証書遺言を作成すると良いでしょう。
なお、平成30年7月6日、相続に関する法律が改正で(約40年ぶりに相続に関する民法改正)法務局において自筆証書遺言を保管してもらうことができるようになりました。

遺言書について詳しくは、下記の関連記事もご参加にして下さい。

「相続・遺産を残すことをお考えの方」

将来的に認知症になったら?

65歳以上の高齢者の7人に1人約15%に認知症があると報告されています。すでに全国で約462万人(2012年)の方が認知症を推計され、2025年には約700万人、5人に1人になると見込まれています。(内閣府 平成28年版高齢社会白書)
国立長寿医療研究センターの調査では、長寿と共に認知症の割合が上がるという調査結果があります。

国立長寿医療研究センターの調査
国立長寿医療研究センターの調査

自分の判断能力が衰えた場合の不安に備えての制度の活用

任意後見契約の活用

任意後見契約とは

任意後見契約とは、自分が認知症等で契約や財産管理等が適切にできないような状況になる場合に備えて、自分に代わって財産管理や契約をしてくれる人を予め定めて公正証書で依頼しておく契約です。
任意後見契約をしておかなくても認知症等になった時に家庭裁判所に身内等が申し立てれば法定後見人を選任してもらうことはできますが法定後見人が誰になるかは裁判所が決めるので必ずしも自分の知っている信頼できる人になるとは限りません。
自分の信頼できる方を選びたい場合は、任意後見契約がお勧めです。

任意後見契約については、下記の関連記事もご参加にして下さい。

「任意後見契約が年間1万件を突破」

「財産管理及び任意後見について」

身元保証について

アパート入居の際に,借家契約で保証人ないし連帯保証人が求められることがほとんどです。
しかし,身寄りのない方が保証人を探すのは困難です。ただ、借家契約も契約なので、保証人をつけないで契約することを強制することはできません。
そこで、家賃保証会社と契約する方法もありますので、不動産会社に確認してみましょう。
こうした問題は、入院時に保証人が求められる場合にも生じます。
医療機関は、医療費の支払の保証や亡くなった後の対応のために、保証人を求めます。
しかし、身寄りのない方だと、保証人を立てることができず、適切な治療を受けられない可能性があり問題となっています。
そうした問題を踏まえ、身元保証サービスを行う団体もあるようです。

延命治療について

医学の進歩によって、植物状態になっても延命できる事例が増えてきたことにともない、延命は患者の尊厳を害しているのではないかという問題意識が出てきました。
そうした意識から、患者の自己決定権を重視した尊厳死がクローズアップされるようになり、「尊厳死宣言公正証書」が作成されるようになっています。

尊厳死宣言公正証書

もっとも、尊厳死宣言は、法的拘束力があるものではないため、希望どおりにはならず、家族が延命治療の中止に同意しない場合や医師が延命治療の中止を拒否する場合があります。
尊厳死宣言公正証書を作成するうえでは、ご家族はもとより、主治医の先生とも話し合いながら作成することが望ましいです。

自分の葬儀について

ご自分の葬儀の方法を考えたことはあるでしょうか。
様々な宗派や葬儀方法があるなかで、ご自分の希望を実現するためには、遺言書を作成しておくことや死後事務委任契約を締結することが考えられます。
まず、遺言書の作成ですが、遺言には、遺言事項付言事項があります。
遺言事項は、財産を相続させることや遺言執行者を決める事項で法的に効力が生じるものをいい、付言事項は法的な効力を生じさせるものではありません。
葬儀の方法は、付言事項とされ、遺言に記載しても、相続人等が遺言どおりの葬儀方法や葬儀内容を行う義務はなく、法的拘束力を生じさせるものではありません。
とはいえ、相続人があなたの意思を尊重してくれる可能性はありますし、祭祀承継者を遺言で決めるということも考えられます。

死後事務委任契約

死後事務委任契約ですが、これは死後の事務を委任するというものです。
例えば、通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬などの事務を委任するということが考えられます。

身寄りのない方の遺品整理について

近年、独居の方が増えており、自分亡きあとのアパートのことや遺品処理をどうするかという相談があります。
この点について、死後事務委任契約を締結するのがお勧めです。
死後事務委任契約では、例えば、家財道具等の処分や賃貸アパートの明渡しなどの事務を委任することができ、自分亡きあとの各種処理を委任することができます。
死後事務委任契約の内容の詳細や費用についてご相談ください。
死後事務委任契約については、下記の関連記事もご参加にして下さい。