相続・遺産を残すことをお考えの方

遺言書を書き残すことを考えよう

遺言書を書き残しておくことが大切なのは、なぜでしょうか。
それは、あなたに万一のことがあった場合に備え、前もって財産の行き先を指定しておき交通整理の役割を果たしてくれるのが遺言だからです。
都市部の交通量の多い交差点で、信号機もない、道路標識もない、行き先案内表示もない、としたらどうなりますか。たちまち事故は起きるわ、大渋滞になるわ、で交通はマヒしてしまいますね。
遺言書がないということは、あなたの遺産の行き先が決まっていませんから、相続争いが起きやすい状態を放置していることになります。
特に、「子供がいない夫婦」、「自営業の人」、「離婚経験がある人」、「財産が自宅のみの人」、などの場合は、相続争いが起きやすいので、とにかく遺言書を残しておきましょう。また、「身寄りがいない人」も遺言書を書き残しておくべきです。
遺言書は、いつでも、何度でも書き直すことができます。
とにかく遺言書を書いておいて、不都合が起きたら自由に書き直せばいいのです。
いつ、何が起きても、あなたの財産をめぐって親族が争う状態だけは避けて、財産の引き継ぎがスムーズに流れる交通整理、それが遺言です。
遺言書を書き残すことは、遺族に対する最大の愛情なのです。

公正証書遺言を作るようにしよう

遺言書といっても、いくつかの種類があります。
主なものとしては、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。簡単に言うと、自筆証書遺言とはすべてを遺言者が自署して作成する遺言をいい、公正証書遺言とは公証人に作成してもらう遺言を言います。
どちらの遺言が良いでしょうか。

自筆証書遺言ではやはり心配です

自筆証書遺言は、自分で書けばよいので、費用もかからず、いつでも書けるというメリットがあります。
でも、この自筆証書遺言はデメリットが多く、あまりおすすめできません。
デメリットというのは、

①法律的に見て不備なものになっていることが多くあり、場合によっては、遺言そのものが無効になってしまうことがあります。

②自筆証書遺言は、その遺言書を発見した者が必ず家庭裁判所にこれを持参し、相続人全員に呼出状を発送した上、その遺言書を検認するための検認手続を経なければなりません。

③自筆証書遺言は、これを発見した者が自分に不利なことが書いてあると思ったときなどには、破棄したり、隠匿や改ざんをしたりしてしまう危険がないとはいえず、その場合、遺言者の意思が実現されない危険があります。

④自筆証書遺言は全文自書しないといけないので、当然のことながら、病気等で手が不自由になり、字が書けなくなった方は、利用することができません。

自筆証書遺言は紛失、盗難、災害等による消失の問題も大きいですが、「自筆」か否かが争われることもあります。
裁判例では、第一審では「印鑑が本人のものであり、筆跡が偽造であると認める確かな証拠がなく、形式等からも偽造を裏付けるものはない」と指摘し、自筆であることを認めましたが、控訴審では、「過去の自署された書面と対比して、本人が自署したというには大きな疑問がある」と指摘し、自筆であること否定しました(高松高裁平成25年7月16日判決)。
それでも、取り急ぎ自筆証書遺言を作りたいということであれば、「日付(作成日)」「氏名」「押印」は必ず必要であること、全文を自署しないといけないこと、を知っておいて下さい。
弁護士としては、遺言書の作成の依頼を受けたときは、取り急ぎ、簡単な自筆証書遺言を作成し、その後、公正証書遺言を作成する、という二段方式をとることがあります。これは、人間はいつ亡くなるか分からないので、遺言書を作ると決まれば、まずは簡単ではあっても弁護士の面前ですぐに自筆証書遺言を作ってもらい、その後、安心感のある公正証書遺言を作るのです。
過去に、公正証書遺言を作ろうとしてその準備をしている間に、依頼者の方が急死したことがあったので、こういうことを実践しています。弁護士としては、公正証書遺言を作成するまでの間の暫定的なものとして、自筆証書遺言を利用する、そういう位置づけです。

公正証書遺言を作るのがベストです

やはり、遺言書を作るのであれば、公正証書遺言を作ることを是非おすすめしたいところです。
公正証書遺言であれば、

①法律の専門家である公証人が作成しますので、複雑な内容であっても、法律的に見てきちんと整理した内容の遺言にしますし、そのため遺言が無効になるおそれはほとんどありません。

②家庭裁判所で検認の手続を経る必要がないので、相続開始後、速やかに遺言の内容を実現することができます。

③原本が必ず公証役場に保管されますので、遺言書が破棄されたり、隠匿や改ざんをされたりする心配も全くありません。

④病気等のため自書が困難となった場合でも作成が可能です。

こうしたことから、やはり遺言書は公正証書遺言で作成しましょう。公正証書遺言なら安心かつ確実にあなたの意思を実現できます。
確かに、公正証書遺言を作ろうと思えば、少しばかりの費用がかかります。
けれども、そのお金は、確実に遺言を実現するための必要経費だと考えて下さい。
弁護士は、この公正証書遺言を作成するお手伝いをしています。

遺言公正証書の証人について

遺言公正証書を作成するときは、立ち会いの証人が2人以上必要です。
証人は成人に達していれば誰でもなれますが、推定相続人やその配偶者・直系血族など遺言者と身近な関係者は、証人になることができません。
ある方の相続の相談を受けたとき、生前、被相続人(母)が遺言を作ろうとして公証役場に電話したところ、証人が2人いると言われて、自分の遺言のことを知らせても大丈夫な知人なんていない、ということで、作らないまま亡くなったんです、という話でした。
公証役場にお願いすれば、公証役場が証人を用意してくれるのですが、そのときはそこまで教えてくれなかったようなのです。
遺言があれば、相続争いも防げたのに、本当に残念な話でした。
なお、弁護士が遺言公正証書の作成のご依頼を受けたときは、弁護士やその事務員が証人になることが多いです。
旭合同法律事務の弁護士もこれまで、多くの遺言の証人になっております。

相続争いが生じやすい方

こういうケースは遺言がないと揉めることが多い、というものがあります。
そういう人をお見かけしたときは、遺言を作りましょうよ、と弁護士の方からおすすめしています。
代表的なものとしては、

①子供がいない夫婦

②自営業の人

③離婚経験のある人

④財産が自宅のみの人

などです。
少し長くなりますが、大切なことなので、一つ一つご説明しましょう。

子供がいない夫婦

子供がいない夫婦の一方(例えば夫)が死亡すると、どうなると思いますか。妻が(夫の)遺産を全部取得すると誤解していませんか。
遺言がなければ法定相続が開始されて、死亡した夫に親(直系尊属)がいる時は、配偶者である妻の相続分は3分の2、親の相続分は3分の1になります。
夫の両親(直系尊属)が既に他界している時は、妻の相続分は4分の3、夫の兄弟姉妹の相続分が4分の1になります。
なんだ、民法は分かりやすく出来ていると思われるかも知れませんが、これがなかなか面倒です。
相続人の全員で遺産分割協議書を作成しなければ、最終的に妻が夫から何を相続するかが決まらないからです。
亡くなった夫の兄弟姉妹が近くに住んでいれば遺産分割協議も進めやすいのですが、平素の行き来もないとか、どこに住んでいるか連絡もつかない兄弟姉妹の場合は、住所探しから始めることになります。
しかも、夫の兄弟姉妹が全員生存しているとは限りません。既に死亡している者がいれば、その者の子供が代わりに相続人になります(これを代襲相続人といいます)。夫の兄弟姉妹が全員死亡していれば、それらの者の子供全員が代襲相続人ですから、人数もかなり増えるのが普通です。代襲相続人全員の居場所を把握して連絡を取るだけでも大変です。
遺産分割協議書を作るまでに、長い月日と経費がかかります。
しかも、兄弟姉妹やその子供たちまで相続人として出てくると、中には、故人のことを何も知らないということもあって、自分の権利ばかりを主張する人も出てきますし、全く話し合いに応じない人も出てきます。
そのため、子供のいない夫婦の場合は、残される配偶者が遺産相続で苦労しなくても済むように、たとえば「全財産を妻(又は夫)に相続させる」という内容の遺言を、お互いに残しておくことが特に必要です。
後に残される妻(又は夫)に対する最大の愛情を形あるものとして残しておくのが遺言です。

自営業の人

個人で商売を営んでいるアナタは、将来を見据えて後継者を育てておられることと思います。
しかし、それだけでは自分の事業をスムーズに引き継いでもらうことはできません。
もし、遺言を書かないうちに急死すると、法定相続になりますから、アナタの遺産は各相続人に分割され、後継者はアナタの築いた家業を続けることができないおそれが起きます。
アナタが指名する後継者に、家業を確実に継いでもらうためには、家業を営むための資産を特定し、その資産を後継者に相続させるという内容の遺言書を作っておく必要があります。
その際は、遺言書の中で、なぜ特定の財産を家業の後継者に相続させるのか、その理由(動機)を他の相続人にも分かるように書いておくことも大切です。

離婚経験のある人

こんな事案がありました。
ある男性が離婚し、幼い子供の親権は妻が取得して、その後、妻子らは遠方に移り住み、男性とは全く音信不通となりました。
その後、男性は、自分の両親と同居して生活をしていました。
しかし、その後、男性は病気で亡くなってしまったのです。
遺言書がないと、男性の遺産は、どうなると思いますか。
すべて、元妻との間の子供が取得することになります。子供がまだ小さければ、事実上、親権者である元妻がその遺産を取得することと等しい結果となります。
同居されていた男性の御両親は、ともに病気との闘病生活を送られましたが、何も残りませんでした。
しかも、男性には自宅があり、御両親もそこに同居していたようなケースだと、御両親は自宅を追い出されることになります。
遺言書がないとこういう結果となってしまいます。このケースだと、すべての遺産を御両親に遺贈する、という内容の遺言書を書き残しておくべきでした。
だから、離婚歴のある人は、再婚の有無にかかわらず、遺言書を書き残しておくべきなのです。

財産が自宅のみの人

めぼしい遺産が自宅だけという人が、遺言を残さないで死亡すると、ときとして大変なことになります。

まず、自宅の土地建物は法定相続割合に応じて相続人全員の共有財産ということになります。
そして、相続人の中でその遺産の現金化を強く迫る人がいると、その自宅を売却処分しその手取り代金を相続人の間で配分することになることがよくあります。自宅以外の財産があれば、自宅に居住している人が自宅を取得し、その他の財産を他の相続人が取得する、という調整ができるのですが、めぼしい財産が自宅しかないという事案ではこうしたことができません。
こうなると、自宅に居住している残された配偶者(たとえば妻)は、泣く泣く、住み慣れた自宅を出て行くことになります。
「妻が終生自宅に住めるようにしておきたい」とか「妻の面倒を看てくれる長男に継がせたい」などと考えている人は、遺言によって、自宅を誰に相続させるかをはっきり書き残しておく必要があります。
私には自宅しかないから遺言書まで書かなくても、、、と考えるのはやめましょう。
遺産争いは、あなたが亡くなった後に起こります。そのとき、遺言がないと家族が苦しむことがあるのです。

こんな遺言を残すことができます

遺言書に書く事柄というのは、何もそれぞれの相続人が取得する財産を決めておくだけではありません。
本来は相続人ではない人に遺産を与えたり、遺産以外の事柄でも遺言書で書き残すこともできます。
こうした遺言で比較的よくあるものをご紹介しておきましょう。

尽くしてくれた息子の嫁に財産を分けたい

オジイさまは息子夫婦や孫たちに囲まれて暮らしていましたが、息子に先立たれて悲しみにくれました。しかし、息子の嫁が親身になって身の回りの世話をしてくれるので、何不自由なく余生を過ごしています。オジイさまとしては、息子の嫁の孝養に報いるため、自分が亡くなったとき何がしかの遺産を嫁にも分け与えたいと考えています。
しかし、孫たちはオジイさまの相続人ですが、息子の嫁はオジイさまの相続人ではないので、オジイさまの希望を叶えるためには、目の黒い今のうちに遺言書を作り、息子の嫁に分けてやりたい財産を書いておく必要があります。
遺言で相続人ではない人に財産を分け与えることを「遺贈」といいますが、効力は相続と変わりません。

永年苦労を共にした内縁の妻に財産を継がせたい

永年生活を共にしてきたパートナーでも、婚姻届を出していない場合は「内縁の妻」ではありますが、「配偶者」に該当しないので妻としての相続はできません。
もしアナタに万一のことがあっても内縁の妻が路頭に迷わないよう、今のうちに手当をしておきたいアナタは、是非とも遺言書を作っておくべきです。
近いうちに遺言をと思っていても、遺言書を書かないうちに急死するようなことになると、アナタの財産はアナタに先妻の子がいればその子に全部相続され、子がいなければアナタの両親に、両親が他界していればアナタの兄弟姉妹が全部を相続し、内縁の妻は住む家も失うおそれが生じます。
そのうちになどと、のんきなことは言っておれませんよ。近所からも「奥さん」と呼ばれ、「旦那さん」と呼ばれ一緒に暮らしているパートナーが、いつどのようなことになっても路頭に迷わないよう、その手当をしておくのが遺言です。
なお、このように相続人ではない人に財産を譲る内容の遺言は、必ず公正証書にすることと、遺言執行者には信頼できる弁護士を指定おくことが大事です。

最後に身を寄せて世話になった施設に財産を受け取ってもらいたい

老人養護ホームなどの施設で暮らしているオバアさま。施設でもお友達が何人もできて、毎日を楽しく過ごしています。
オバアさまは、子どもたちも皆それ相応の暮らしをしているので、自分が亡くなったとき残っている財産があれば、お世話になっている施設にそれを寄付し、福祉のために役立ててもらいたいと考えています。
このような場合、最寄りの公証役場に連絡すれば、公証人が出張してくれますから、公正証書での遺言書を作っておくのが一番よい方法です。遺言書に書いておけば、相続人以外の個人とか団体にも自分の財産を引き継いでもらえます。

葬儀の方法やそれを主宰する者を指定しておきたい

葬儀の方法は、仏式、神道方式、キリスト教式などいろいろあります。また、同じ仏式でも宗派や寺院によって違ってきます。最近は、神社や教会の方式を避けて、友人葬などが広がりつつあります。
自分の葬儀をどのような方式で進めてもらいたいか、誰を葬儀の主宰者(喪主)に指名するかということも、遺言書ではっきり指定しておくことができます。信頼できる人を葬儀の主宰者に指名しておいて、生前にその人によく話しをしてくと、あなたが希望する葬儀の方法が確実に実現できます。
なお、葬儀費用を遺産から支出することも遺言で書き残しておくとよいでしょう。この遺言がないと、葬儀費用は喪主の持ち出し(自腹を切る)ことになる可能性が高いからです。

未成年の子どものため後見人を指定しておきたい

離婚して実家の近所で未成年の子ども二人を育てているママ。いつ何どき東海・南海トラフが機嫌を損ねて巨大震災が起きるかも知れないし、交通事故に巻き込まれたり、病気で急死することもあるかも知れません。ママに万一のことがありますと、二人の子たちは誰が育て、誰が守ってくれるのでしょうか。
日本の法律は、親が離婚すると片方の親にのみ親権が残り、もう一方の親は親権を失います。このママの場合は子ども二人の親権を得て子育てをしています。ママに万一のことがあると、子たちは親権者がいない状態になります。こんな状態の未成年をママに代わって守り保護する役目を担う人を「未成年後見人」といいます。
ママとしては、安心して子が成人になるまでの世話を託せる者、すなわち未成年後見人を遺言書で指名しておくのが、最も良い方法です。
遺言で未成年後見人の指名をしておきますと、裁判所での選任手続きは必要なく、ママに万一のことがあると直ちに後見人に就任できます。

相続人がまったくいないので、遺産の行方を決めておきたい

配偶者や子や孫がいないし、親兄弟も甥とか姪もいないAさんには相続人がおりません。
相続人がいないAさんが遺言を書かないで死亡した場合は、家庭裁判所によって相続財産の管理人が選任されます。
その上で、Aさんと一緒に暮らしていた人やAさんの療養看護に努めた人などの特別縁故者が、家庭裁判所に請求してAさんの遺産を受け取る手続もありますが、最終的に残りの財産は国庫に帰属します。
このような立場のAさんとしては、自分に万一のことがあったとき、これまで親しくお世話になった人に財産を受け取ってもらいたいという内容の遺言書を作っておくことをお勧めします。
この場合は相続ではありませんから「遺贈」といいます。遺贈の対象者は個人でも法人でも構いません。通常多いのは、面倒を見てくれた人に遺贈することだと思いますが、その他にも、地元の社会福祉協会でもいいし、あしなが育英会という慈善団体でも構わないのです。Aさんの篤志は、これらの団体を通してきっと社会のために役立ててもらえるはずです。
このときも、Aさんは信頼出来る弁護士を遺言執行者に指定しておけば、最もスムーズに自分の意思を実現できることになります。

遺言執行者を決めとく事も大切です

遺言を作っても、その遺言で書かれた内容を実現するためには、遺言執行者という人を決めておくことも大切なことです。
遺言執行者とは、遺言を実現する人、という意味です。
遺言執行者を指定しておかないと、遺言の内容によっては、相続人全員が協力しないと実現できないものもあり、遺言内容に不満を持つ相続人がいると、遺言内容の実現がなかなか進まないというトラブルが生じることがあります。
例えば、金融機関の預貯金口座は、遺言書の中で相続人の一人がすべて相続する旨の記載があっても、その遺言書を譲受人が持参してとしても、解約払い戻しに応じてくれないことがよくあります。相続人全員が銀行所定の相続届出用紙に押印(実印)をして、全員分の印鑑証明書を提出しないと解約払戻しに応じてくれないことがあるのです。
ところがこのような場合でも、遺言書の中で遺言執行者が決めてあると、遺言執行者が遺言書を銀行に提出すれば解約払い戻しがスムーズにできます。非協力的な一部の相続人などの協力がなくても、遺言の内容を実現することができるのです。
遺言執行者は誰でも指定できますが、やはり弁護士を遺言執行者に指定していただくと、確実かつ安心です。

遺言は絶対ではない(遺留分)

遺言を残していても、必ずしもそのとおりに実現できないこともあります。
たとえば、遺言者(父)の相続人として長男と次男のみがいるケースを考えます。
遺言者は、長男にすべての遺産を相続させたいと願っているとします。
こうした場合、まずは、長男にすべての遺産を相続させる、という遺言を作ることになりますね。
しかし、このような遺言を作ってあっても、次男が遺言の内容に不服であれば、法定相続分の「半分」について、長男に遺産を引き渡すように求めることができてしまいます。先ほどの例ですと、次男の法定相続分は2分の1ですから、その半分である遺産の4分の1を引き渡すように求めることができることになります。
このように遺言によっても剥奪できない権利を「遺留分」と言います。
遺言の記載内容によっては、遺言者の意思どおりにはならない場合があるというわけです。
遺留分で保護される割合は誰が相続人かで異なります。原則として、遺留分で保護される割合は「法定相続分の2分の1」ですが、「直系尊属のみが相続人のとき」の遺留分は「法定相続分の3分の1」となっています。
ただ、兄弟姉妹が相続人の場合、その兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺言を作る場合は遺留分についてもよく考えておくことも大切なことです。
そこで、ときには、遺言を作るのと同時に、遺留分についての対策を講じることもあります。

遺留分を克服する方法

遺言があっても、「遺留分」というものによって、その遺言の内容が実現できない部分が出てくることをご説明しました。
もう一度、遺言者の相続人として長男と次男のみがいるとして、遺言者としては長男に遺産を引き継がせたいと思っている、そういう例で考えてみましょう。遺言者としては、長男にすべての遺産を相続させる、という遺言をまずは作ることになります。
でも、次男には「遺留分」があるので(具体的には4分の1が遺留分で保護される割合です)、このままでは遺言が実現できない部分が出てきますから、何らかの対策が必要になりますよね。もちろん、次男が遺言の内容に従ってくれれば良いのですが、そうならない危険があるため、遺言者としては「生きているうちに」この「遺留分」についての対策を取りたいわけです。
まず、遺言者の「生前中」に、次男に「相続放棄」「遺留分放棄」をするような「念書(書類)」を書かせても無効です。
司法書士さんの中には、遺言者の「生前中」に、「特別受益証明書」(自分はたくさん生前贈与をもらったからもう受け取る遺産はないよという書面)というのを次男に署名させておく方法をとる方もおられますが、これは本当に生前贈与がなされたことが証明されていないとして無効になることがあり、あまりおすすめできません。
次に、「遺留分放棄の許可申請」という制度がありますが、これは、遺言者の「生前中」に、「次男自身」が、「裁判所」へ「遺留分放棄の許可申請」という手続きをとり、裁判所がこれを「許可」すれば、次男は遺留分を失うというものです。しかし、この手続きは、実際上はあまり利用されていません。自分が不利になるような手続きをわざわざ裁判所へ申請してくれる人はあまりいませんからね。
更に、遺言書で次男を相続人から廃除するとの遺言書を残す(「相続人廃除」の遺言)、という方法もあります。しかし、この相続人廃除の遺言は、遺言者の死後において裁判所が「許可」してはじめてその効力が生じるのですが、この裁判所の許可のハードルは非常に高いものとなっており、利用しにくいのが現実です(被相続人が生前中に相続人廃除の手続きをとることもできますが、やはり裁判所の許可のハードルは高いです)。
こうしてみると、ご紹介した方法では遺留分の対策としては不十分といえます。
では、どうすれば良いのでしょうか。

やっぱり「生命保険」がおすすめです

いろいろ考えると、やはり一番のおすすめとしては、遺言書を書き残すとともに、「生命保険」をうまく利用する方法だと思います。
先ほどの例で言うと、遺言者が生命保険の契約をして、死亡保険金の受取人を長男にしておきます。
原則として、生命保険の死亡保険金は受取人の固有資産と考えられています。
そのため、遺言者の死去によって、長男が多額の生命保険金を受領したとしても、次男はそれについては文句が言えないわけです。
こうしたことによって、遺産を長男に残したい、という遺言者の意思が相当程度実現できることになります。
生命保険の中には90歳までなら加入できるものもあります。
ご高齢の方であっても、この生命保険を利用することはできますので、どんどん利用しましょう。

ときには「養子縁組」を利用することも

遺言者が養子縁組をして養子を迎えると、相続人が増えますから、その分だけ、遺留分の割合が相対的に低下します。これによって、遺言者の意思が相当程度実現できます。
先ほどの例で言うと、たとえば、長男の妻との間で養子縁組をすれば、次男の遺留分を相対的に低下させることができるわけです。
つまり、養子縁組をすれば、遺言者の相続人は3人(長男、次男、養子)となりますから、次男の法定相続分は3分の1となり、遺留分で保護される割合は6分の1に低下します(養子がいなければ、次男の法定相続分は2分の1ですから、遺留分で保護される割合は4分の1です)。
ただ、この養子縁組の利用は慎重に考えないといけません。あとで、長男と妻との夫婦関係が壊れてしまうこともありうるわけで(離婚してしまうこともあるわけで)、そのとき、アナタと養子(長男の妻)との離縁がスムーズに進むかどうか分からないからです。
長男夫婦が非常に仲が良ければ、また、遺言者であるあなたとの関係も良好なのであれば、この養子縁組を利用する価値はあります。

死後事務委任契約

委任者が、受任者に対し、自己の死後の葬儀や埋葬等に関する事務を委託し、その代理権を付与する委任契約を「死後事務委任契約」と呼んでいます。
生前の委任契約としては財産管理等委任契約がありますが、死後の事務を委任するということもできるわけです。
法律では、原則として、委任者又は受任者の死亡によって委任契約は終了するとなっていますが(民法653条1号)、委任契約において、委任者が死亡しても委任契約を終了させない旨の合意をすることができるんですね(最高裁平成4年9月22日判決)。
死後事務委任契約における一般的な委任事項としては次のようなものがあります。

①亡くなったときの親族等への連絡

②通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬などの事務

③債務の支払(未払治療費、未払公共料金などの各支払)

④家財道具や生活用品の処分や借家の明渡など事務

そして、これらの必要な費用などは、遺言執行者又は相続人より、遺産の中から支払を受けることができるという契約を締結しておきます(もちろん、生前においてその費用を受任者が預かっておくこともできます)。 ただ、この死後事務委任契約での委任事項というのは、遺言の形で、遺言執行者や祭祀承継者にお願いをしておくことで実現していることが多いですね。 しかしながら、諸事情により、遺言ではなく、こうした死後事務委任契約を締結するということもできるわけです。 自身の死後のことについて、いろいろな方法で手当することができるんですね。

相続分や分割方法の第三者への委託

遺言で、第三者に、自分が亡くなったら、遺産を「どの割合」で各相続人に取得させるか、「どのような形」で取得させるか、を委託することもできます。

たとえば、認知症を患っている妻の面倒を見ている夫がいるとします。

今は夫が妻の面倒を見ていますが、自分が亡くなった後、残された妻をどの子供が面倒を見てくれるかは決まっていません。

子供は3人おり、口では面倒を見るとみんな言いますが、最終的にどの子供が夫亡き後、妻の面倒を見てくれるかが分かりません。

しかし、夫は、自分も病気を持っているので早めに遺言を書いておきたいと思っているとします。

そんなときに検討するものの一つとして、相続分や分割方法を第三者に委託する、そういう遺言を作ることもできます。

信頼できる第三者に、最終的に妻の面倒を見てくれた子供に多くの遺産を与えるように指定してもらう、そういうことができるわけです。

そして、遺言執行者も決めておけばより安心です。

署名のできない人も遺言を作れます

公正証書は、本来は、遺言者が口で遺言内容を公証人に伝えて、自分で署名することが必要ですが、どうしても署名できない場合は、公証人がその旨を遺言書に記載して押印することとなります(公証人法39条4項)。

ですから盲目の方であっても公正証書遺言を作成できることになります。

したがって署名のできない方は、自筆証書遺言は作れませんが、公正証書遺言であれば遺言書を作れることになります。

代襲相続に注意

子供のいない夫婦で配偶者がなくなった場合に、残された配偶者が相続人が自分一人だと思っていたところ、死亡した配偶者に甥(姪)がいて相続がもめることがあります。

これは代襲相続と言う制度があるからです。

死亡した配偶者に兄弟がいると、その兄弟の子供が兄弟に代わって相続権を取得します。

これが代襲相続と言われるものです。このような場合は、配偶者の生前中に遺言書を作成しておかないと配偶者が死亡した時に自宅の名義変更をするだけでも甥(姪)の印鑑を貰わないと相続の名義変更はできません。

すんなり印鑑をくれればよいのですが、相続権を主張されると困難なことになりますので注意が必要です。

民事信託制度の活用

民事信託というものが注目を集めています。民事信託には、遺言、成年後見などの既存の制度では対応できないことが民事信託なら可能となるので、それが注目される理由です。

遺言では対応できないが民事信託なら対応できること

①相続人に財産を相続させたいが、ただ、一度にたくさんの財産を相続させると浪費する恐れがあるので、年金のように分割で財産を相続させたい。
②相続人に財産を相続させたいが、相続人がまだ未熟なので、例えば相続人が一定の年齢になった時に相続させたい。
③後継ぎ遺贈をしたい。例えば、まずはAさんに毎月分割で財産を引き継がせるが、Aさんが亡くなったときにまだ財産が残っていたら、次はBさんに財産を継がせたい。
④投資不動産があるが、相続人が複数いる場合において、各相続人には賃料収入を得させるようにしたい。

成年後見では対応できないが民事信託なら対応できること

①自分が認知症になっても、所有する財産を使った投資や投資用不動産の積極活用ができるようにしておきたい。
②自分が認知症になっても、相続税対策を進めておきたい。例えば、相続人への財産の承継を順次しておきたい。

利用価値のある民事信託ですが、信託財産を預かる受託者による濫用の危険もあります。
そうした場合に備えて、弁護士などを信託監督人に付けておくことも大切なことです。

民事信託制度は、家族信託とも言われております。

自筆証書と公正証書について

遺言書 自筆証書と公正証書について

岐阜県弁護士会所属 平田伸男 弁護士