交通事故と保険関連

自動車に関する保険には、「自賠責保険」と「自動車保険」があります。

自賠責保険は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」)に基づき、自動車を運行する場合に強制的に加入が義務付けられている保険であり、「強制保険」と言われています。

一方、自動車保険は、一般の保険会社や共済組合が販売している民間の保険であり、自賠責保険が強制保険であることの対比から「任意保険」と言われています。
現在、任意保険の加入率は、約73~74%と言われていますが、交通事故の補償は自賠責保険だけでは不十分であるため、可能な限り任意保険に加入すべきです。

自賠責保険

被害者救済の観点から、人身事故における損害の最低限度を保障することを目的としています。

自賠責保険について

自賠責保険は強制保険と言われ、自動車を運転する場合には必ず加入しなければならないことになっています。

自賠責保険は、被害者救済のために過失相殺を厳密に行わないことになっていますので被害者に少々の過失があっても規程にしたがって計算された金額を全額被害者に支払ってくれます。

しかし金額は一律に低額に設定されており強制保険だけでは通常は被害者に十分な補償を行うことはできません。

なお自賠責保険は被害者との交渉を保険会社が代わってする制度がついていませんので自賠責保険にしか加入していない場合は、加害者が被害者と直接交渉しなければなりません。

そこで普通は運転者は追加で任意保険に加入して自賠責保険で不足する補償部分を被害者に対して上乗せして補償することになります。

任意保険にも加入している場合は、任意保険は被害者との交渉を保険会社が代わってする制度がついていますので加害者が被害者と直接交渉する必要はなくなります。

自賠責の範囲及び支払限度額

自賠責は、「人損」を対象にした保険であるため、原則として「物損」は対象になりません。
しかし、例外的に身体機能を補完する一定の物については保険の対象となります。

例えば、被害者が義肢、義足、義眼、コルセット、松葉づえ、補聴器、メガネをかけていた場合に、これらが事故で破損した場合には、修理代や再購入価格が保険の対象となります。(ただし5万円が限度)
また事故で傷害の結果、これらが必要と医師に判断された場合にも、これらの費用は保険の対象となります。

そのうえで、自賠責の保険金額は、政令によって1事故における被害者1人に対する填補すべき限度額が定められています。
この限度額は、大きく分けて、①死亡により損害、②傷害による損害、③後遺障害による損害に区別されますが、現在は、①死亡が3000万円、②傷害が120万円、③後遺障害が等級に従って14級の75万円から1級の4000万円と限度額が決まっています。
もちろん、これは限度額に過ぎませんので、交通事故に遭えば必ずこの金額が支払われるということではありません。

例えば、死亡の場合は、葬儀費用、逸失利益、慰謝料等の合計を各基準に基づいて計算して3000万円の範囲内で支払うという意味であり、無条件で3000万円が支払われるわけではありません。
同様に、傷害の場合も治療費、休業損害、慰謝料等を計算して120万円の範囲内で支払うという意味であって、短期間で治療が終了した場合にまで120万円が支払われるわけではありません。
したがって、損害の内容によっては限度額を下回る保険金しか受給できないこともあり得るのです。

このように、自賠責では限度額の範囲内で支払基準によって計算した金額しか支払われませんが、枠が残っている場合に、自賠責保険を被告として提訴すれば支払基準を無視して裁判所が支払い命令を出せるかが問題になります。

この点について、最高裁は、枠が残っていれば自賠責の支払基準を無視して裁判基準で支払命令が出せるとしています。
もっとも、過失相殺も支払基準に拘束されず適用されるため、被害者請求の段階で過失相殺されていない場合には、枠が残っていても訴訟で過失相殺されて敗訴する可能性があります。

自賠責の請求方法

自賠責保険の請求方法には2種類あります。いわゆる「加害者請求」と「被害者請求」です。

加害者請求

加害者が被害者に対して損害賠償金を支払った限度で保険金を請求する手続のことです(法15条)。
加害者が保険金を被害者に対して支払わないで着服することを防止し、被害者の救済を確実にするため、被害者に賠償金を支払った限度でしか保険金を請求することができないようになっています。

被害者請求

被害者が直接保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する手続のことです(法16条)。
被害者請求は、被害者自身が自賠責調査事務所の要請に応じて様々な手続をしなければならないので、手続が煩雑になる反面、後遺障害等級認定を被害者自ら請求できるメリットがあります。
任意保険会社が加害者の立場から後遺障害等級認定を請求する、いわゆる「事前認定」では等級認定の結果が不本意なものになりかねず、被害者請求の方が透明性の高い手続を期待できます。

自賠責保険に異議の申立

もちろん、被害者請求を行っても納得しえない後遺障害等級認定の結果が出ることもありますが、その場合には、自賠責保険に異議の申立を行うことができます。
異議申立書において、具体的にどのような点が納得できないのか理由をあげて主張することになりますが、できれば異議の理由を基礎づける追加の証拠(診断書、検査結果など)も添付して提出した方が良いでしょう。
また、異議が却下された場合には、(財)自賠責保険・共済紛争処理機構に調停の申立をすることができます。

重過失減額

自賠責保険は、被害者保護の観点から過失相殺が制限されており、被害者に過失が認められる場合であっても、その過失割合が7割以上でなければ保険金を減額されることはありません。

①後遺障害又は死亡の場合は、(ア)過失割合が7割以上8割未満で2割減額、(イ)8割以上9割未満で3割減額、(ウ)9割以上10割未満は5割減額になります。②傷害の場合は、過失割合が7割以上で2割減額されます。なお、被害者の過失割合が10割であった場合は、そもそも自賠責保険を請求することはできません。

このような過失相殺の制限によって被害者の過失割合が大きい場合には、任意保険よりも自賠責保険の認定金額の方が高額になる場合があり、そのときには自賠責保険の請求を先行すべきです。

例えば、損害総額が100万円、被害者の過失割合が7割であったと仮定すると、任意保険では過失相殺により30万円(7割減額)、自賠責保険では重過失減額により80万円(2割減額)が支払われることになるため、自賠責保険を先行した方が被害者に有利になります。

自賠責の時効

被害者が直接自賠責保険に請求する場合は、原則事故から3年です。

自賠責保険金請求権の消滅時効は、一般の債権についての消滅時効より短い消滅時効が定められています。これは、自賠責保険が大量かつ迅速な事件処理を目的としているからです。

このため、被害者の直接請求権(被害者請求)の時効は、①傷害の場合は、事故日の翌日から起算して3年間、②死亡の場合は、死亡時の翌日から起算してから3年間、③後遺障害の場合は、症状固定日の翌日から起算して3年間になっています。

ただし死亡の場合は、死亡時から3年で、後遺障害の場合は、症状固定から3年です。

加害者が被害者に賠償金を支払った後に、自賠責保険に請求する場合は、賠償金を支払ってから3年となります。

なお平成22年3月31日以前の事故についてはいずれも2年ですのでご注意ください。

また、加害者が被害者に損害賠償金を支払った後に自賠責保険に請求する場合(加害者請求)は、被害者に損害賠償金を支払った日の翌日から起算して3年間となっています(H22.3.31以前の事故は2年間で時効になります)。

したがって、示談交渉が長期化しそうな場合は、被害者としてはとりあえず保険会社に請求するか、あるいは時効中断の申請をして保険会社の承認を得るなどして時効が完成しないよう手続を取る必要があります。

人身事故の証明が取れないために自賠責に請求できないときの対応

事故から時間がたってから医者に通いだしたなどというケースの場合に、自動車安全運転センターから事故証明や物損事故の証明しか取れないことがありますが、このような場合でも自賠責保険に人身賠償請求をする方法があります。

「人身事故証明書入手不能理由書」という文書を保険契約者か被保険者が作成して添付書類(事故車両の写真、修理見積書、事故現認書など)をつけて提出すれば保険金請求することができます。

政府保障事業制度

政府保障事業制度とは、自賠責の補完制度として、国が加害者に代わって被害者の損害填補を行う制度のことです。

自賠責保険によって、被害者は最低限度の賠償を得ることができますが、加害者の車両に自賠責保険が付されていない場合、盗難車による事故の場合、ひき逃げ事故の場合等では、自賠責から賠償を得ることはできず、被害者保護という自賠法の目的を達成することはできません。そこで、無保険車、盗難車、ひき逃げ等による事故の被害者を救済するために登場したのが政府保障事業制度です。

政府保障事業による保障は、支払限度額等の基本的な内容は自賠責保険と同一ですので、他の法令による給付を得られなくても、被害者は、自賠責と同等の保障を得ることができます。

もっとも、政府保障事業は、被害者が「損害のてん補に相当する給付を受けるべき場合」は、その部分については、被害者に支給をしないことになっているため、健康保険を使用せずに治療を受けると、本来、健康保険が支払うべき部分については被害者には支給されません。

最高裁平成21年12月17日判決も、労災保険法等で被害者が将来受け取る給付(平均余命までの分)部分も自賠責既定の損害賠償金から控除すべきであると判断しています。

具体的に、自賠法は政府保障事業の保障対象として、以下のような場合を定めています。

被害者に対する保障

①加害自動車の保有者が不明の場合

ひき逃げ事故など加害自動車の保有者が明らかでない場合、被害者としては加害自動車の自賠責保険会社を特定することが不可能であるため、このような場合には政府保障事業の対象となります。

ちなみに、実務上は、加害者と疑われている者が判明していたとしても、その者が事実関係を争っている場合については、とりあえず加害車両の保有者不明のひき逃げ事故と取り扱い、政府保障事業の適用対象としています。

②無保険車による事故の場合

自賠責に加入していない法律違反の無保険車が事故を起こした場合は政府保障事業の対象となります。

③自動車保有者が運行供用者に該当しない場合

盗難車、無断運転等による場合で、加害自動車の保有者の管理に落ち度がなく、保有者が自賠法上の運行供用者に該当ないときは、保有者に賠償責任が生じないため、被害者は、加害自動車の自賠責保険に対して損害賠償金を背休することができません。このような場合には政府保障事業の対象となります。

保険会社に対する保障

①悪意による事故の場合

被保険者が悪意によって事故を発生させた場合、自賠責保険会社は保険 金の支払義務を免れますが、被害者からの直接請求に対しては損害賠償金を支払わなければなりません。このような場合、自賠責保険会社は、被害者に支払った金額について政府保障事業から填補を受けることができます。

②自動車保有者の賠償責任が事後的に否定された場合

被害者に対して仮渡金が支払われた後で保有者に賠償責任がないことが判明した場合、自賠責保険会社は被害者に対し、仮渡金として支払った金額の返還を請求することができるが、実際の回収は容易ではありません。このような場合、自賠責保険会社は支払った金額について政府保障事業から填補を受けることができます。

その他

自賠責保険が「人損」を対象にした保険であるため、人身事故の証明書が取得できず自賠責に請求できない場合があります。事故から時間が経過してから通院した場合など、自動車安全運転センターから事故証明や物損事故の証明書しか取得できないことが考えられますが、このような場合でも自賠責保険に人身賠償請求をする方法があります。

「人身事故証明書入手不能理由書」という文書を保険契約者(加害者)か被保険者(被害者)が作成して添付書類(事故車両の写真、修理見積書、事故現認書など)をつけて提出すれば自賠責保険金を請求することができます。

また、身内が交通事故で死亡したが、事故の損害賠償を受領しても返済しきれない多額の借金があるような場合があります。このような場合、賠償金を受取らず相続の放棄をした方が良いです。一般的に相続放棄をすると一切の賠償金が受領できないと考えられていますが、これには例外があり、自賠責保険では、葬儀費用は挙行者が受領できるので、原則60万円(60万円を超える場合は100万円の範囲内で必要かつ妥当な実費)は請求することができます。

また、遺族固有の慰謝料は相続で取得するものではないので、相続放棄と関係なく請求することができます。金額は請求者1人の場合は550万円(被害者に被扶養者がいる場合は200万円を加算)など相続人の人数で異なってきますので、専門家に一度ご相談されることをお勧めします。

自動車保険[任意保険]

任意保険の補償内容は、①賠償責任保険、②傷害保険、③車両保険に大別することができます。

賠償責任保険

いわゆる対人賠償保険で、自賠責保険を超える部分に対する保険であり、自賠責保険の上乗せ保険として位置付けることができます。
また、対物賠償保険は、他人の財物、すなわち「物損」に対する賠償を填補するには、自賠責保険は、「人損」の賠償に限定されていますので、対物賠償保険に加入するしかありません。

傷害保険について

人身傷害保険

自動車事故によって被保険者が受傷した場合、自身の治療費、休業損害、後遺障害に関する損害等、現実に発生した損害額を填補する保険であり、「実損給付型傷害保険」です。
補償される損害項目や計算方法は、保険会社や共済組合の保険約款に定められており、過失相殺を考慮せずに支払われること、被保険者が単独で事故を起こしてしまう事故や、相手方に過失が全くない事故、いわゆる「自損事故」で賠償義務者が存在しない場合にも保険金が支払われるという特徴があります。

搭乗者傷害保険

被保険自動車の正規の乗車構造装置のある場所(例えば、助手席や後部座席等)に搭乗中の者が、被保険自動車の運行に起因する事故をはじめ、被保険自動車の飛来物又は落下物との衝突、火災、爆発、被保険自動車の落下などという急激かつ偶然の外来的事故によって身体に傷害を負った場合に支払われる保険です。入通院保険金、後遺障害保険金、死亡保険金が定額で支払われる「定額給付型傷害保険」です。

無保険車傷害保険

無保険自動車による事故によって、被保険者の生命又は身体が害された直接の結果として、死亡又は後遺障害が発生した場合に、被保険者、配偶者、子又は父母が被る損害について、賠償義務者(加害者)がいることを条件として支払われる保険です。
例えば、無保険自動車にはねられて死亡した場合、後遺障害が残存した場合に、本来加害者が負担すべき賠償額を被保険者が加入する保険会社が立て替えて支払い、被保険者が十分な賠償額を受領できることを目的としています。

①加害者が無保険であった場合
②加害者の保険の補償上限を上回る損害を受けた場合
③加害者が飲酒運転等で保険が使えない場合

などに自分の任意保険を使って自分の損害を補償してもらうことができます。

なお無保険車傷害特約は過失相殺の適用を受けます。

車両保険について

衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来又は落下、火災、爆発、盗難、台風、洪水高潮その他偶然の事故によって、被保険自動車に発生した損害を填補する保険です。なお、保険約款では、地震・噴火・津波については免責事由と規定していますので注意が必要です。

その他の自動車保険について

弁護士費用特約は、被害者が加害者に対し、損害賠償請求をする際の弁護士費用等を保険会社が支払うものです。さらに、自身が自動車保険に加入していない場合でも、家族の誰かが自動車保険に加入している場合、付帯の弁護士費用特約が使える場合があります。
弁護士費用特約でカバーされる弁護士費用は、法律相談料、示談交渉、調停、訴訟、調査費用などほぼ全ての弁護士費用が含まれます。300万円を支払限度額とする保険が多いようですが、保険会社によっては弁護士費用だけでなく、司法書士や行政書士費用を担保する内容になっているものもありますので、よく確認してみてください。

交通事故による人身損害について社会保険を利用する場合

交通事故で損害が発生した場合には社会保険が大きく関わってきます。

例えば、健康保険を利用して怪我の治療を受けるには、保険者が被害者の加害者に対して有する損害賠償請求権を代位するため、被害者は保険者に対し、加害者の属性や事故内容を正確に連絡しなければなりません。

そこで、健康保険などを利用して交通事故の治療を受ける場合には、速やかに「第三者の行為による被害届」を作成・提出しなければならないことになっています。

交通事故で損害賠償責任が発生し、同一の原因で損害賠償責任に先行して社会保険給付を受けた場合に、給付額を損害賠償額から控除すべきか否かという問題が発生します。

「損益相殺」に該当する保険給付か否かについては、(ア)給付の目的が損害の填補に該当するか、給付内容が損害賠償を構成する損害項目と一致するか、(イ)保険給付の基礎となる法律に調整規定が存在するか、(ウ)給付される保険についての被保険者の保険料負担の有無等の要素から検討されることになっています。

貸付制度

自賠責保険及び自動車保険とは別に、交通事故被害者への貸付制度・給付金制度が用意されています。

貸付金制度、給付金制度には幾つかの種類がありますのでご紹介します。

自動車事故対策機構(独立行政法人自動車事故対策機構 NASVA

生活資金貸付や重度後遺障害になられた方に介護料支給などを行っています。

「不履行判決等貸付制度」-確定判決や和解調書等があるのに相手方が払ってくれない場合に、払ってくれない金額の半分(ただし最高100万円)までを有利子(年3%)で貸してくれるものです。
返済は1年据え置きの10年以内の分割返済ですが、途中で病気等になれば返済猶予が可能です。

自動車事故により重度の後遺障害が残り、治療と常時介護を必要とする方のうち、一定の要件を満たす方は、①療養センター(委託施設を含めて全国7ヶ所)への入院、または②介護料の支給などの援助を受けることができます。
介護料については、支給対象となるサービス及び支給対象となる介護用品が定められていますが、最高で13万6880円が支給されます。

「保障金一部建替貸付」-交通事故の被害者の方で政府保障事業について保障金請求をしている方で、まだその保障金を受け取っていない方は支払予定の保障金の半分以内であれば(最高290万円)、無利子で貸し付けを受けられる制度です。

「交通遺児等貸付」-交通事故により死亡または重度後遺障害の残った方の子供(中学卒業まで)さんを対象に、育英資金を無利子で貸し付けを受けられる制度です。貸付期間終了後、半年又は1年経過後に、月賦等の方法で20年以内の返済ができます。貸付金の内容は、最初に一時金15万5000円、以後月々2万円、小学中学入学時に4万4000円(希望者のみ)になります。

交通遺児等育成基金(公益財団法人交通遺児等育成基金

交通遺児育成基金事業と交通遺児等支援事業を行っています。

道路厚生会(一般財団法人 道路厚生会

東日本、中日本、西日本高速道路㈱が管理する道路における事故で無くなられた方の子供さん(経済的理由での修学困難者)に「修学資金」の給付等を行っています。

交通遺児育成会(公益財団法人 交通遺児育英会

事故で無くなられた方又は重度後遺障害を受けられた方の子供さん(経済的理由での高校・大学修学困難者)に「無利子の奨学金貸付」の事業を行っています。

定期金賠償方式

保険会社が交通事故の被害者に賠償金を支払う場合、将来の生存期間を予想して将来の損害も含めて一括で賠償金を支払うことが一般的です。
しかし、将来分について被害者が死亡するまで一定期間ごと(例えば一か月ずつ)に賠償金を支払うという方法もあります。これが「定期金賠償方式」と呼ばれるものです。

定期金賠償方式のメリットとしては、被害者が平均余命より長期間生存された場合には、平均余命を前提とした一括補償金では将来不足する可能性がありますが、定期金賠償方式であればその不足が生じる心配がありません。

定期金賠償方式のデメリットとしては、保険会社が途中で倒産してしまうとそれ以降の賠償金を得られなくなるというリスクがあります。

ちなみに実務では、定期金賠償方式による損害賠償命令を出すことを認めており、実際に定期金賠償方式による判決が出される例もあります。
ただし、被害者が一括払いを求めているのに、裁判所が勝手に定期金賠償方式の判決を出して良いのかという民事訴訟上の問題が残ります。

保険金請求における証明責任の範囲

被保険者が保険会社に対して保険金を請求する場合、どこまで証明責任が負担するかという問題があります。

これについて、最高裁平成19年4月23日判決は、車両盗難事案において車両保険金を請求する者は「被保険者以外の者が被保険者の占有にかかる被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という「盗難の外形的事実」を合理的な疑いを超える程度にまで立証しなければならないと判示しています。

しかし、第三者が車両を盗難したことを直接立証することは困難ですから、実際の訴訟では、①請求者の保険事故発生前後の行動、②保険事故の客観的状況、③請求者の属性・動機の有無、④保険契約締結に関する事情等を総合的に考慮して判断されます。具体的には、請求者が過去にも保険金請求をしているか、イモビライザーが搭載されているか、高価な追加装備がされているかなどの事情も考慮されているようです。

一方で、保険会社は「被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づくものであること」を立証しなければ、賠償責任を免れることはできません。

このような、保険金請求における証明責任の範囲は、自動車保険に限らず、生命保険の災害割増特約に基づく保険金の請求や、火災保険金請求の際にも問題になっています。