老後のアパートの管理を自益信託を活用

65歳で退職するAさんは、老後のため昨年暮れに賃貸アパートを新築しました。
将来、自分が認知証などになっても心配ないよう、その時に備えて息子Bさんにアパートの管理を任せ、家賃は自分の生活費等に充てたいと思っています。
また、このアパートが値上がりし、買いたい人が現れたときは、Aさんの判断能力が失われていても、Bさんの判断に委ねて素早く対応して欲しいとも思っています。
Aさんの思いを実現するには、どのような制度があるのでしょうか?
今のAさんが利用できる制度として代表的なのは、任意後見と自益信託です。
Aさんが委託者兼受益者、Bさんが受託者となり賃貸アパートを信託財産とする信託契約を結びます。信託効力は契約締結と同時に発生しますが、第三者に対抗するには、不動産登記簿に信託財産であることを登記する必要があります。
信託が始まると、受託者Bさんは賃貸契約の締結や終了時の諸手続き、家賃徴収、アパートの維持管理はもとより買いたい人が現れた場合の対応を迅速に行うことが出来ます。
一方、委託者Aさんは受益者ですから、このアパートから得られる利益はAさんのものとなり、年金と併せて老後の生活費に使えます。
このように、委託者と受益者が同じ人物になる信託契約が「自益信託」です。成年後見に比べて手続きも簡単で、費用も安上がりですから、老後の資産運用に取り入れてはいかがでしょうか。
信託に税金問題が絡むと面倒だと思われがちですね。
普通の信託は委託者と受益者が違うので「他益信託」と呼ばれ、委託者から受益者への贈与があったものとみなされます。
でも、自益信託は委託者と受益者が同じ人ですから、税金の問題は発生しません。家賃収入に対する税金は信託の前後を通じてAさんが納税することで変わりません。

弁護士 高橋 寛