道路交通

あおり運転に罪の名前はあるの?

先行する車に対し、車間距離を詰めて異常に接近し、追い回して進路を譲るように強要したり、ハイビームでのパッシングやクラクションを鳴らして、幅寄せや直前への割り込みを繰り返すなどして、相手を威嚇したり、嫌がらせをする行為が「あおり運転」です。あおり運転の多くは、高速道路で行われます。
あおり運転罪という名前の犯罪はありませんが、安全な車間距離をとらずに先行車に異常接近する行為は、道路交通法26条が禁止している車間距離不保持の罪に当たる犯罪で、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金に処せられます。
あおり運転によって人が死傷する事故が発生した場合は、過失運転致死傷罪よりもはるかに重い危険運転致死傷罪で処罰されます。これは、最長20年以下の懲役が科せられる重罪です。
あおり運転が社会問題となったケースを紹介しておきます。

死亡事故の原因は、あおり運転

2017年6月5日、神奈川県大井町の東名高速道路下り線で、追い越し車線に停車していたワゴン車に大型トラックが突っ込み、ワゴン車に乗っていた静岡県の夫婦が死亡し、娘2人が怪我する事故が発生しました。

一瞬にして両親を失った娘2人の呼びかけによって、警察が捜査を進めたところ、この事故は次のような経過で起きたことが分かりました。

この事故の少し前、事故現場から約1・4キロメートル手前の中井パーキングエリアで、ワゴン車を運転していた人から、乗用車の駐車方法を注意された福岡県の男(建設作業員)は、頭にきました。
ワゴン車がパーキングエリアから出発すると、男は乗用車でワゴン車を追いかけ、急接近したり前方に割り込んだりするあおり運転を繰り返し、追い越し車線でワゴン車の前に止まって進路をふさぎ、ワゴン車を停車させました。
そこへ、冒頭の大型トラックが突っ込んできて今回の事故が発生したことが分かり、乗用車の男による執拗な「あおり運転」が死傷事故の原因であることが明らかになりました。
作業員の男は、その後逮捕され起訴されたことは言うまでもありません。

悪質運転に厳罰化

交通事故については、自動車運転過失致死傷と危険運転致傷罪だけでしたが、新たに自動車運転死傷行為処罰法ができました。
これは、飲酒・薬物、特定の病気で正常な運転に支障が生じるおそれのある状態で死亡事故を起こした場合は、最高で懲役15年の刑になります。
またその人が無免許であった場合は、最高で20年の刑になります。
また飲酒(薬物)運転で事故を起こして飲酒(薬物)運転を隠すために逃げたりなどした場合には、最高で懲役12年になります。
またその人が無免許であった場合は、最高で15年の刑になります。

運転者が不起訴で納得できない

検察審査会制度の概要

日本では、刑事事件を起訴する権限は、原則として検察官だけが持っています。検察官の判断で不起訴処分になると、刑事裁判は行われません。その場合、検察官の不起訴処分を不服に思う人の求めに応じて、検察官の判断が妥当かどうかを審査するのが検察審査会の役割です。検察審査会は、各地方裁判所と支部の所在地に設置されています。

1 検察審査会に審査を申し立てることができるのは、次の人です。

(1)   告訴人、告発人、請求が必要な事件についての請求人

(2)   犯罪被害者(被害者死亡の場合は、その配偶者・直系親族又は兄弟姉妹)

2 審査を申し立てる対象は、検察官の不起訴処分です。そのため、略式命令で罰金になっているときは、申立ができません。

3 検察審査会は、選挙人名簿に登載されている有権者の中から不作為に選ばれた11名の審査員で構成されます。審査は、過半数(6名以上)の多数決で議決されますが、下記①の議決は3分の2(8名)以上の賛成が必要です。

議決の種類は、次の3とおりです。

①    起訴相当(起訴を相当と認めるとき)

②    不起訴不相当(前号の場合を除き、不起訴処分を不当と認めるとき)

③    不起訴相当(不起訴処分を相当と認めるとき)

4 上記①、②の議決があると、検察官は速やかに、その議決を参考にして起訴・不起訴の処分をします。この処分は直ちに検察審査会へ通知されます。

5 上記①の議決をした検察審査会は、検察官から再度の不起訴処分の通知を受けたときは、その処分の当否を審査します。2度目の審査で起訴の議決をした検察審査会は、議決書の謄本を裁判所に送付しなければいけません。

6 これを受けた裁判所は、その事件の起訴及び公訴維持を担当する者を弁護士の中から指定します。指定弁護士は、被疑者が死亡している場合などを除き速やかに起訴しなければならないので、強制起訴と言われています。

7 強制起訴された事件で有名なのは、小沢一郎の陸山会事件、明石花火大会歩道橋事故、JR福知山線脱線事故ですが、これまでに有罪判決が出たのは徳島県西山町ホステス暴行事件くらいしか見当たりません。

8 その一方で、上記①、②の議決を受けて検察官が起訴し、有罪になった事件はそこそこありますから、最初の不起訴処分があっても諦めることはありませんよ