治療中の対応

交通事故と健康保険

交通事故に遭って怪我をした場合、救急車を呼んで病院に行きますが、病院から「交通事故の場合には第三者行為によるものなので保険診療は使えず、自由診療でお願いします。」等と言われることがあります。

診療報酬は、治療ごとによってあらかじめ点数が決まっており、保険診療は点数の単価も決まっています。一方、自由診療は点数の単価を自由に決められるので保険診療より点数の単価が高く、病院が自由診療を使わせるためにこのようなことをいうのです。

しかし、交通事故であったとしても保険診療が使えることは、厚労省も認めており、このようなことを周知するよう通達も出しています。

加害者が任意保険に入っており、賠償能力が十分な場合には自由診療でも問題はないですが、自賠責保険しか入っていないという場合には、保険診療を使った方が無難でしょう。

よって、交通事故によって受傷した場合に、そもそも医療機関で健康保険を使用できないのではないかと質問されることがありますが、交通事故でも健康保険を使用することが可能です。(昭和43年10月12日旧厚生省保険局保険課国民保険課課長通知)。

現在の厚生労働省も平成23年8月9日付で「犯罪や自動車事故等による傷病は、医療保険の適用があり、保険給付の対象となる」との通達を出しています。

但し、保険診療にした場合には健康保険協会などが加害者に求償するために、「第三者行為による傷病届」を提出しなければならないので、お気を付け下さい。

加入している健康保険組合に連絡をして、第三者行為による傷病届の書式を郵送してもらい、書式に必要事項を書き込んで届出をします。

交通事故において、健康保険を使用するメリット

交通事故において、健康保険を使用するメリットが大きい場合もあります。

交通事故における過失割合が大きい場合には健康保険を使用する方が望ましいです。

健康保険を使用しない自由診療の治療費は、一般的に高額となる場合が多く、過失割合が大きい場合には、相殺後の損害賠償請求額が高額な医療費に充当されるリスクがあります。

そのため健康保険を使用するのがお勧めになります。

高額医療費の負担が交通事故における過失割合が多い場合には、自己負担として跳ね返ることがあります。

健康保険には傷病手当金制度もありますので、ご留意ください。

傷病手当金は、被保険者が病気やけがのために労働することができず、その期間、賃金が減額されまたは受け取ることができなかった場合、健康保険から支給される制度になります。

傷病手当金制度では、休業4日目を起算点とし、労働ができなかった期間について、1日あたり標準報酬日額の3分の2に相当する金額が支給されます。支給期間は1年6ヶ月が限度となります。

交通事故と労災保険

交通事故が労働災害(業務災害や通勤災害)として発生した場合には、被災者には労災保険から給付が支給されます。

労災の場合には健康保険が使用することができません。

労災保険は、従業員を1人でも使用している事業所は加入する義務があるものであり、労働基準法による労働者に該当する場合、アルバイト、パート、日雇い労働者でも適用されます。

労災保険については、労災保険を利用すると保険料が上がるとかアルバイト、パートには関係ない等の誤解が多いようです。

会社が労災保険の加入手続を怠っていたり、労災保険の保険料を滞納している場合もありますが、この場合でも従業員の労災保険の給付は可能です。

労災保険を診療に使用した場合、窓口負担がありません。また、労災保険では,労働災害による休業期間につき、平均賃金の60%に相当する休業補償給付が支給されます。
これに加えて、平均賃金の20%に相当する休業特別受給金の支給を受けることができます。

休業特別受給金については、加害者に対する損害賠償額から損益相殺されないので、被害者は,休業損害額から損益相殺後の平均賃金の40%を、加害者(加害者が加入する保険会社)に対して請求することができます。

そのため、被害者は、結果として、休業損害として平均賃金額の120%の賠償を受けることができます。
この点は労災保険を利用するメリットになります。

健康保険及び労災保険と自賠責保険との関係

健康保険を使用する場合、自賠責保険との先後関係はありません。

被害者は、健康保険で給付を受けた金額について損害賠償請求に充当されますが、治療費の自己負担分やその他の通院交通費や慰謝料を自賠責保険に請求することができます。

労災保険と自賠責保険について法律上の先後関係はありませんが、実務上、自賠責保険を先行するよう運用されています。

過失割合が多い場合、過失割合で紛争がある場合、自賠責保険の適用がないか争われる場合には、労災保険を先行する方がメリットが多いです。
労働基準監督署は自賠責保険先行の指導をするケースもありますが、法律上の根拠がないことを指摘して労災保険を先行するのが望ましいです。

保険会社からの治療打ち切り勧告に対する方法

通常、交通事故の被害に遭った場合、加害者側保険会社は被害者の通院する医療機関に対して直接治療費の支払いを行います。
その後、加害者側保険会社が治療費の支払いを中止することがあります。

この場合には、被害者は通院する際に医療機関に対して治療費を支払わなければならなくなります。
このような加害者側保険会社の治療費の打ち切りの問題は法律相談の内容として多い問題です。

加害者側保険会社の治療費の打ち切りによって法的に治療費の損害賠償請求権が消滅する訳ではありません。
また、被害者が直ちに医療機関に対する治療を中止する理由にもなりません。

法的に治療費の請求が終了する場合は、「完治」した場合、「症状固定」した場合になります。

「完治」とは、傷病が治癒して治療を継続する必要がなくなった場合になります。

「症状固定」とは、一般的には、治療を継続しても症状が改善しなくなる状態をいいますが、交通事故の事例において、「症状固定」の判断は非常に困難です。

交通事故での傷病の種類・程度によってケースバイケースですし、年齢や個人差も影響します。

基本的には医療機関の主治医の判断が重要ですが、それが絶対視される訳でもありません。

医療機関において医療継続の必要性の説明がある限り、健康保険に切り替える等して、通院を継続すべきであると言えます。

加害者保険会社から医療機関の治療費の打ち切りの理由とされる原因は様々ですが、以下のような原因が多いと言えます。

通院実績が非常に少ない

通院期間の空白期間が大きく存在する場合には、治療中止の勧告を受ける原因となります。
当然ながら過剰通院は問題ですが、適切な通院実績は適切な損害賠償請求のためには必要な行為になります。

医療機関での治療内容が希薄な場合

医療機関での治療内容が希薄な場合にも治療中止の勧告を受ける原因になります。

例えば、単純に湿布薬しか処方されていないとか、リハビリ内容が希薄である等がその例示になります。
治療時間がない等の理由もあるかと思いますが、適切な時期に適切な治療をしっかり行うことが必要です。

治療費が自己負担となった場合に治療費の捻出に困ることもあります。

この場合には、「自賠責保険の仮渡金制度」「被害者が加入する人身傷害保険への請求」等を活用することが考えられます。

自賠責保険に対する法律に基づく仮払いの制度で1回のみ可能です。

請求金額は被害の程度で決まっており、以下の通りです。

①死亡の場合・・・290万円
②入院14日以上かつ治療30日以上を要する場合・・・40万円
③大腿骨・下腿骨の骨折の場合・・・40万円
④上腕又は前腕の骨折の場合・・・20万円
⑤入院14日以上を要する場合・・・20万円
⑥入院を要し治療30日以上を要する場合・・・20万円
⑦治療11日以上を要する場合・・・5万円

被害者が加入する任意保険の「人身傷害保険」を活用し、任意保険会社に相談をして、医療費等を請求する方法もありえます。「人身傷害保険」の約款内容は個々の保険会社や加入状況によって多様ですので、どの程度の請求が可能かは任意保険会社に確認が必要となります。

交通事故の被害者では、医療機関の「待ち時間の長さ」「診療時間の短さ」を理由に「接骨院」「鍼灸院」での施術を行っている人も多いです。

「接骨院」のみで施術している場合は、治療の打ち切りのみならず、過去に遡って治療費を争われるリスクもあります。一般的には、整形外科等の医療機関も併せて定期的に通院することが紛争予防になります。

「接骨院」での施術について、医療機関の主治医の同意ないし指示があると望ましいです。
医療機関の医師が指示をされることは少ないと思われますので、少なくとも同意を頂くことが紛争予防になります。